Software Design 1993年12月号

本号はまず冒頭に「Microsoft Windows NT 日本語版[ベータリリース]」のスペシャルレビューが14ページに渡って掲載されている。ここ数号でWindows NTがリリースされたという情報が各記事に書かれており、英語版の軽いレビューも以前の号(たしか10月号だったか)に載っていたのだが、ここで日本語版が出たということで大々的に取り上げられている。当時のSD誌のサブタイトルが「UNIXとワークステーションの情報誌」なので、ワークステーションOSであるNTを取り上げるのも当然か。

特集は「これで完璧!UNIX=PCネットワーキング」。PC側にTPC/IPスタックやUNIX互換の各種ツールをインストールしてUNIXにつなげようという趣旨の記事だ。もう忘れている方も多いかもしれないが、Windowsは3.1までTCP/IPスタックをOSで標準サポートしていなかったので、各種サードパーティ製ツールが販売されていた。真っ先に取り上げられているのが「CHAMELEON TCP/IP, NFS」というツール。カメレオンかあ、懐かしいなあと思ったが、自分が知っているのは後に出た廉価版のInternet Chameleonだった。ついでにいうと自分が使っていたのはこれでもなくてTrumpet Winsockだった。。。

Solarisに関する記事で、「Solaris 2.2の使用感」というのが掲載されていた。冒頭でもうバージョンアップかという旨の記載があったが、調べてみると2.1から2.2リリースまでは半年だったようだ。Solaris 10から11まで6年かかっていたことから見ると、当時はまだまだ発展途上だったということがわかる。なお念の為補足すると、1998年リリースのSolaris 7からバージョン番号の2.xが省略されて少数第1位が整数に昇格している。

1年ほど連載していた「平成こだわり倶楽部」が最終回。前回まで2階に渡ってプログラミング言語の歴史、最終回はテクニカルライティングについてと、今でも知っていて損はないネタ。それにしてもおそらく新世代という意味で使われていたと思われる「平成」を関した連載を、平成最後の秋にレビューするのも感慨深い。

さて、ここまでで1993年は終わり。創刊当初のPC雑誌からは様変わりしているが、まだ個人でワークステーションを使うという目線がメインとなっているので、やはり今とはテイストが違う。これが今と同じような誌面になるのはいつになるだろうか。

Software Design 1993年11月号

特集は「入門!PC UNIX [ハードウェア設定編]」。PC UNIXインストールに関わるハードウェアについての解説記事だ。特に第1章の「IBM−PCの基礎知識」は当時のハードウェアスペックを一覧できる貴重な資料になっている。当時はちょうどPentiumが発表された頃で、まだ主流は486の時代。拡張バスは汎用のISA, EISAのほか、486CPUのアーキテクチャに依存した高速バスのVL-Busが主流だった頃。PCIバスはちょうど仕様が固まってきた頃で、Pentium以降はこちらが主流になることは当時から見通されていたことのようだ。あとはストレージはIDEにSCSI、メモリモジュールは72pin SIMM(30pinが退場する頃)でまだDIMMではない、BIOSは今と変わらずAMI製が主流など。当たり前だけど、この後はパフォーマンス向上にあわせて規格がアップデートされてきたけれでも、基本的な構成は当時から変わらないことがわかる。

一般記事に「3次元グラフィックツールIRIS Inventor」という紹介記事。IRISということはSGIのマシン用のツールだ。これは記事そのものよりもOpenGLが紹介されていることに興味を持った。今度のmacOS MojaveやiOS 12からOpenGLが非推奨となる話なので、ちょっと反応してしまった。

連載記事ではこのところ「湾岸通信 NeXT View From Bay Area」の著者(元CannonのNeXT部門にいた社員で、その当時は独立していたようだ)がどんどんNeXTについて悲観的になっていっている。まあ実際その悲観は半分はあたったわけだが(NeXTは消滅)、もう半分は外れといえるかな(NeXTの主要コンポーネントはmacOS、iOSとして生き続けている)。

Software Design 1993年10月号

特集は「SPARC & Solaris新たなる挑戦」。タイトルそのまま、SPARCのロードマップとSolaris 2.1の特集だ。今のSolarisにつながる歴史がここから始まったわけだ。

もう一つ、「NEXTSTEP for Intelの実力」という記事で、前号より引き続きNEXTSTEP for Intelの紹介を行っている。93年に入ってからの各号ではNeXT社がハード売りを縮小させてOSベンダーへと進んでいく様子が歓迎・落胆双方の感想で各ライターがまとめている。今となってはこの方針転換が大成功だったわけだが。

前号から引き続きPC UNIXのPANIXが紹介されている。これ、日本のエー・アイ・ソフト(エプソンの子会社、その後本体に吸収)からPC-98シリーズ用にリリースされていたUNIXだったようで、今は影も形もないのが残念。

Software Design 1993年9月号

冒頭にOSの新バージョン紹介記事。NEXTSTEP 3.1J for IntelとSolaris2.1 for x86。というわけでIBM PC-AT互換機への商用UNIX移植が盛んになり始めたことが伺える。

特集は「あなたのUNIXシステム見せてください」。自宅にワークステーションを買ってきてしまうツワモノやPC-UNIXを導入している著者たちの記事だ。京大マイコンクラブの386BSDを入れたという記事で、導入したマシンがPC-9801NS/Eだったのがすごく懐かしい。

単発記事で気になったのが「i860ボードを用いた超高速数値計算」。ベクトル演算とパラレル処理が可能なi860をPC-98の拡張ボードとなっており、これを使うと当時のスーパーコンピュータを凌駕する演算性能が得られる、というものだ。今のGPGPUのトレンドと同じで、これまた興味深い。

Software Design 1993年8月号

特集は「UNIXのフリーソフトを使いたい!」。今使うと怒られてしまいそうなタイトルだ(フリーソフトとフリーソフトウェアは違う!って)。まあ当時のDOS系のフリーソフトと違ってシステムの根幹に関わるソフトウェアがフリーというのは、UNIX文化に初めて触れた人にはインパクト大だったのではないか。

ただ、自分が気になったのはこの特集のコラムにあった「日本初の商用インターネットサービス IIJとは?」という記事。以前IIJ創業者の鈴木さんが書いた「日本インターネット書紀」を読んだので、この記事の末尾にある「(株)インターネットイニシアティブ企画」という社名や住所の「千代田区永田町2-11-2 星ガ岡ビル」という記載が感慨深い。ああこれが解体寸前のビルに間借りしたところだったのか(今はNTTドコモの本社が入っている山王パークタワーが建っている)。

Software Design 1993年7月号

特集は「TeXではじめるUNIXの文書処理」。TeXはきれいな組版がしたくてちょっとだけ解説書を読んだけど、そのまま触りもせずに挫折した経験がある。だってたかが(あえて書く)文書作成のために手順が面倒なんだもん。今はほとんど聞かないけど(自分がTeXを使うような文化のところにいなかったこともあるけど)、今だとどれくらい使われているんだろうか。

一般記事で、この年の春に開学した会津大学について紹介されている。記事だと「将来は社会学系の学部増設の予定があるらしい」とあったが、2018年の今でもコンピュータサイエンスの単科大学でがんばっている。素晴らしい。

今号が最終回の「米国ワークステーション&UNIX事情最前線」で、Solaris上でWindowsマシンが動くWabiというプロダクトが話題となっている。お、後のWineかな?と思って調べたけど、影響は受けたけど直接の祖先ではないみたい。

Software Design 1993年6月号

特集は「UUCPメール&ネットワーク自由自在」。そういえばインターネット普及期にe-mailの使い方記事が巷にあふれていた記憶があるけど、この記事はそれより5年以上前で、e-mailを使ったことがある人はほんの一握りだったはず。

ネットワーク関連の他の記事では、取り上げられているのがtelnetやr系のコマンド(rlogin, rcp)といったセキュリティ的に今は殆ど使われないものからNFSのような今でも重要なものまで。

特別企画「最新!日本語環境にチャレンジ」では、先日の記事で取り上げられないのが不思議と書いたcannaが特集されていた。X11R5のcontribから一般に提供されたそうな(それまではNEC性のワークステーションにのみ付属)。

展示会のレポート記事が出ているが、展示会タイトルが「DOWNSIZING JAPAN ’93」。ダウンサイジングという単語、子供の頃によく聞いたなあ。

Software Design 1993年5月号

特集は「ルーキーに贈る!UNIXプログラマ入門」。今でもよく見る新人社会人向けの記事の走りと言っていいのかな?ツールがC、環境がX-Windowというところが歴史を感じるが、マルチタスクの基礎とかは今でも身につけるべき知識かな。

特別企画として「PC UNIXの現在 ’93春」という特集もある。386BSD、Linux、UnixWare、BSD/386、MachTen2.1がそれぞれ取り上げられている。以前の特集よりもLinuxがフィーチャーされ始めた感じがする。90年代後半のLinuxブームまでの記事の扱いについてはこれからも注目したいところ。あと個人的に気になったのは京大マイコンクラブ訪問の記事。当時X68000ユーザーの高校生だった筆者からするとあこがれの場所だった。今はどうなっているんだろう。

Software Design 1993年4月号

特集は「そのまま使えるperl実例集」。初期のWebでcgiを使うときにちょろっと使ったきり、全然使った記憶が無いけど。perl使いはUNIXできる人というイメージは今も変わらないなあ。

連載の「コマンド調査隊」、本号のテーマはgrep。こういうプリミティブなコマンドの情報は昔も今も変わらないので、今でも役に立ちそう。

Software Design 1993年3月号

特集は「どうする?UNIXの日本語環境」。数年後の日本でのPC-UNIXブームのときに筆者も遭遇した、文字コードも日本語入力の環境もてんでんばらばらの状況は当時から変わらなかったんだね。

日本語入力システムとしてWnnとSKKが取り上げられている。Wnn、懐かしいなあ。なお、Cannaはなぜかない。以前の号では取り上げられていた気がするけど。