大学通信教育の例:放送大学

また少し間が空いてしまった。この間に大学通信教育にも関係する興味深いニュースがあった。
大学設置基準を厳格化(NIKKEI NET)
90年代以降に規制緩和を続けていた大学設置基準を一転して厳格化するというニュースだ。しかも、「通信制大学の教育内容のチェック強化」という項目まで挙げられている。
確かに、前回記載した通信制実施大学のうち、株式会社立として話題となったLEC東京リーガルマインド大学やサイバー大学などで、設備が基準に満たない、本人確認が行われていないなどの不備がたびたび報道されていた。しかしながら、社会人向けに最適化された生涯学習としての課程、ロケーションフリーの手段としてのメディア活用など、規制緩和によって進んできた方向性は間違っていないと筆者は考えている。この方向性を妨げるような改正にはならないことを願っている。
さて、今回は放送大学について説明する。
この大学はよく知られているとおり、テレビやラジオで講義を放送することによって教育を実施している、通信教育課程のみの大学である。また、放送大学学園法という法律に基づいて設置された、実質的に国が運営している大学としても知られている。一応、「特別な学校法人」が設置した私立大学という扱いになっているが、それはあくまで形式的な話である。ついでに書くと、設立時は放送大学学園法という同一名称の旧法によって設立された特殊法人によって設置された特殊法人立大学であったが、小泉内閣時代の特殊法人改革によって学校法人に移行するという経緯をたどっている。なお、国が放送を使って運営するといってもNHKが運営しているわけではない。番組制作はNHKに委託されているようであるが。
というわけで、書いている本人もよくわからなくなってくる不思議な大学だが、おそらく生涯学習を考えている社会人にとってはもっとも有名でかつもっとも取っつきやすい大学なのではないだろうか。設立の趣旨にはっきりと「生涯学習」をうたっていることもさることながら、やはり国のバックアップが強力であることが大きい。全国に学習センターを持ち、放送授業は自宅で誰でも無料で視聴可能、学部は教養学部のみだが科目数は多く、教授陣も充実している。さらに2011年以降のBSデジタルチャンネル拡大にも優先的に参入が認められるなど、一般の私立大学が運営している通信教育と比較してリソース面で圧倒的にアドバンテージがある。なにしろそもそもこの大学を設立するために「大学通信教育設置基準」が作られたほどである(それまでの「大学通信教育基準」では通信教育を行う独立の学部を設置することはできなかった)。その力の入れようがわかるであろう。
これは一方で通信教育を行っている私立大学から見ると脅威である。当然設立時には各大学に衝撃が走ったようで、現在の私立大学通信教育協会が設立される契機となったようである。その際、このリソースを他大学のインフラとして利用できないのかという話が出たようであるが、筆者の見る限りでは現在のところ一部の大学との単位互換以上のことは行っていないようである。もったいない話ではある。
というわけで、気軽に高等教育にふれてみたい、生涯学習を始めたいという方にはおすすめの大学である。大学卒業資格が欲しい、学士になりたいという方にとっても、比較的卒業しやすい大学という話があるためおすすめできるだろう。詳しくは松本肇著「中卒・中退・不登校 誰でもイキナリ大学生―放送大学/通信制大学“特修生制度”活用法」(オクムラ書店)を読むことをおすすめする。蛇足だが、著者の松本氏は慶應の通信教育に関しても非常に大きな影響を与えた方である。いずれ書くことになると思うが、氏の活動がなければもしかしたら筆者は慶應の通信課程に入学していなかったかもしれない。
また長々と書いてしまった。早稲田についてはまた次回。正直なところ、なかなか慶應の話が書けなくて筆者自身ストレスが溜まってきている。
なお、今回の記事から奥井晶著「教育の機会均等から生涯学習へ」(慶應通信)を参考に記事を書いている箇所がある。奥井氏は慶應の通信教育課程を創設時から発展にご尽力された方だそうで、本書にも慶應と通信教育に対する情熱と将来への希望が詰まっている。出版時期が平成3年と古く、もう絶版になっているようで、筆者も今のところ慶應の図書館にしか在庫を確認できていないのだが、興味がある方はぜひ読んでいただきたい。