エレキの若大将 ★★★☆☆

エレキの若大将の話。

本作は加山雄三(若大将)を主役に、田中邦衛(青大将)を憎まれ敵として配したコメディ「若大将シリーズ」の一作である。通算では6作目とのこと。タイトルの通り、エレキギター/バンドをメインに描いた作品であり、その中で後にも加山雄三の代表曲となった「君といつまでも」がタイアップで何度か演奏される。シリーズの他の作品は「ハワイの・・・」「リオの・・・」など、当時は高嶺の花だったロケーションを前面に押し出したものが多いが、本作はずばり「エレキギター!」という、音楽を前面に押し出したのが特徴であろう。

制作には当時の時代情勢が影響していると思われる。ベンチャーズ・ビートルズの大ヒットにより突如日本で巻き起こったエレキブーム。関連する事柄を時系列でまとめてみた。

1960 ベンチャーズデビュー
1962 ベンチャーズ初来日/ビートルズデビュー
1965.01 ベンチャーズ来日→エレキブーム
1965.12 エレキの若大将公開
1966.06 ビートルズ来日

これでわかるのは、本作もまたエレキブームの一翼を担っていたということだ。それは本作で配役としてギターコンテストの司会役を演じた内田裕也が、約6ヶ月後のビートルズ来日公演でも前座・司会を務めている事からも察せられる。この「ベンチャーズのデンデケデケデケ→エレキの若大将→ビートルズ来日」という流れを知ると、当時の熱気も想像できてより楽しめる。ブームが起きて、それについての映画をスターの牽引力だけで、短期間に企画が通せるフットワークの軽さも、この時代ならではだろう。

ベンチャーズと言えば使用楽器はモズライトとなるわけだが、本作に登場するのは、恐らくこれもタイアップのテスコ(TEISCO)の機材だ。買えないモズライト(当時は1ドル=360円の固定レート)より買えるテスコ、ってところか。目視だがベースは確認できなかった。今や中古楽器屋・HARD OFFでさえ見ることは希なテスコのギターがメインで用いられているのも興味深い。やたらヘッドがでかくて、よくわからないスイッチがたくさん付いているテスコを今使うと結構目立つと思うが、それでも今やほぼ絶滅状態だ。

結局ヴィンテージとして残れていないのは、音に問題があるからの一点に尽きるだろう。ベンチャーズブームの影響からか、テスコのギターもかなりモズライトを意識した、サスティーンのあまり無い無骨な音だ。ただしモズライトが攻撃的なバキボキした音だとすると、テスコのはベコベコッて感じだ。「電気信号をそのまま出力しました」みたいな、良くも悪くも味付けのない出音である。この時代、実は家電の日立や松下電器(リゾネーターでないNationalギター)もギターを作っていたが、どれもテスコ的な、ベコベコな正直な音がする。

テスコは本作でも何本も登場するが、デザインは悪くないし、数寄者であればストライプのでかいマッチング・ヘッドに目を奪われるだろう。加山雄三が使用していたものはダン・エレクトロぽいし、他にも取っ手が付いていたり絵の具のパレットのような形のものがあったり、デザインの幅は広い。今でもビザ-ルギターとしての価値はあるかもしれない。ただ一般に、音の深みや伸び、ピックアップレベルでの加工も訴求される現代において、残るのは難しかった。

テスコのオリジナルと言ってもいいモズライトすら、現代ではマイナーブランドになっている。まあモズライトの場合、オリジナルのオーナーが死んだ後権利関係で色々あったようで、その辺も影響していると思うが、音が良ければ(時代に合っていれば)そんなのは関係ないので、やはり今の時代、ああいうバキボキ音は求められていないということなのかもしれない。またモズライトは前述のベンチャーズの印象がかなり強く、「モズライト=ベンチャーズ=おっさんのギター」というイメージがべったり付いてしまっているのもマイナス要因だ。

個人的にはあのバキボキ音はかなり好きだ。ただ、オリジナルメーカーがすでに存在しておらず、現在市場に流通している個体もいくつかのビルダーがあるようで(その中の一つが日本の黒雲製作所)、そんな状況で20数万出せるかとなると躊躇する。

映画とは完全に逸れたギターの話になってしまったが、ストーリーは有って無いようなものなのでどうでもいい。テスコのギターが色々見られると、若大将や寺内タケシの演奏が見られると、それだけでもいいんじゃないだろうか。中でもBlack Sand Beachは今聴いてもかっこいい。

Black Sand Beach