ブラックホークダウン ★★★★★

1993年10月3日、ソマリアの内戦に軍事介入した国連軍(=アメリカ軍)の四方山話。
タイトルのブラックホークダウンはその名の通り、ブラックホークがダウンしたというもの。ブラックホークはアメリカの軍用ヘリであり、10月3日の作戦中に2機のブラックホークがソマリアの武装勢力によって撃沈、墜落してしまった。
予定では一時間でカタの付く作戦がほぼ一日かかってしまい、予定では死者ゼロのところが十数名、この2週間後にアメリカ軍はソマリアから撤退したということを見れば、この作戦が大失敗だったということがわかる。そもそもこの映画通りの作戦だったとしたら、実行前段階でかなり無理あるが。
本作で描かれているのは、指揮命令系統の機能と、また戦場には自分を是非殺してやろうという敵がいるという事である。軍隊に限らず組織のあるところには全体としてうまく機能するように調整する指揮官が上の方にいて、その指示に従い実際現場で動く、早い話が下っ端がいる。スーパーマーケットにおける店長とレジ打ち、戦場における指揮官とソルジャー、どちらにもお客・敵という相手がいて、組織は基本的には相手のために動くのだけれども、決定的な違いは後者の場合相手が積極的にタマをを取りたがっているということだ。一方でそれは「殺らなきゃ殺られる」という麻痺状態の論理を、戦いの前提にしているということでもある。
そういう激しい戦場の中で生死をやり取りしているソルジャーとソマリア武装勢力、間に立つ通信ヘリ、そして映像と音声のみをすべての情報として指揮を執る指揮官の場面切り替えが妙で、本作では戦争映画にありがちな一兵士の心情描写よりも、現場と指揮官の温度差を明確に映像化している。それは本作が厳密に言えば戦争を描いたものではなく、ひとつの戦いの場面展開における組織の動きをメインテーマとしているからだ。
その分映画の中で個々の兵士は没個性的になり、実際オペレーションに参加している兵士は多い上に顔の判別がつかず(多くはスティーブンジェラードかピーターアーツに見える)、ましてやソマリア側は総体としてしか描かれていない。その結果の19:1000という単純に死者数で見た場合の圧倒的な差は、兵士よりも組織に視点を置いたこの映画では単に戦力の違いによるものと受け止められたのは意外だった。もちろん問題は、「なぜ1000人も無駄に殺したか」という点にあるのだけれども。
結果、この作戦だけでなくアメリカは全面撤退という敗北宣言でこの戦争は終結した。事実、軍事介入後のソマリアは内戦を継続しつつもプチ冷戦状態のような小康状態を保っているということだし、なによりこの映画では封殺されている(恐らくヘリから引きずり出して死体をワッショイワッショイみたいなシーンに差し替えられている)、アメリカ兵士の死体をソマリアの群衆が引きずり回し、それがメディアを通してアメリカに知らしめられるというショッキングな映像が、世論を撤退へと導いたというのが通説だ。
過去にはひとつ、メディアと世論によりアメリカが参戦し、敗北したベトナム戦争があるが、これについては10年以内に「プラトーン」「ディア・ハンター」「タクシードライバー」のような再認識映画が制作されているし、それでもなんやかんやでいろんな場面で戦争をやってしまう、これも世論によりやらざるを得なくなる国なわけで、本作にしたってソマリア介入10年後にこういう映画で再認識して、それもコミコミでアフガンでタリバンやっつけたり、イラクとは戦争する気満々なわけで。そういうのも全部ひっくるめて、アメリカはちんちんが大きい国だろうし、洋ピンの黒人男優はロッテの5番打てそうだし、もう、わんぱくな国でございますね。
なお、後日この映画と対をなすドキュメンタリー「ブラックホークダウンの真実」を見ることで追記の予定あり。こちらは史実を忠実に描いているらしいので期待大。
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「ブラックホークダウンの真実」はアメリカ軍が国連の治安維持・食料配布のためにソマリアに駐留した顛末から、やがてアイディード将軍を捕まえること自体が目的となり、それがソマリア人からすると憎たらしいことであるという背景、そして実際にオペレーションに参加したデルタフォース隊員のインタビューを交え、時系列順に構成されているドキュメンタリーだった。
デルタ隊員もつい本音が出ているが、やっぱ作戦の立案段階でかなり終わってるこれ。だって「昼間」「武器マーケットがある市街中心部」「4台のヘリで突入」「突入後ヘリは空中を旋回」というおおまかな作戦があって、相手はAK47(安価な鉄砲)・RPG(安価なロケット砲)を豊富に所有、麻薬やりまくりで死ぬことより相手倒す方が優先、いやむしろ死んでもいいというか、死ぬというのが前提にない感じであるから、そりゃ多少は犠牲が出るのも当然だと思った。
ただこのようなソマリア側の動向・背景がわかったのも作者であるマーク・ボーデンがソマリアに直撃取材、ソマリアの民兵や市民のインタビューも取り入れ、解明していった事が大きい。CBSドキュメントなんか見ててもそう思うが、やはりドキュメンタリーの善し悪しはインタビューの善し悪し、さらにはインタビュアーの善し悪しが大きく作用するだろう。
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2003年3月末に、ブラックホークダウンのゲームが発売された。PCゲームでジャンルはFPS、映画を元にしているようだからシングルモードでは突入からアイディード捕獲まで、マルチモードはネット対戦になっている模様。デモ版でもシングル・マルチ両方ともプレイ可能。RPG!RPG!もちゃんと再現されている。
デルタフォース ブラックホークダウン
http://www.micromouse.co.jp/nova/df-bhd.htm

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