慶應義塾大学通信教育課程の噂:入学時の倍率

慶應通信の近況。

今年1月試験の段階で単位は充足し、5月の卒論指導で卒論提出許可をもらったので微修正後に卒論を製本し提出した。 これで、長かった慶應通信も後は9月の卒業試験(口頭試問)のみとなった。ただせっかく在籍しているので4月・7月の科目試験を1科目ずつ受け、夏期スクーリングも1期のみ参加予定という今までどおりの通信生活をしている。

というわけで、先日最後の科目試験を受けてきたわけだが、その際に久々に大学図書館で調べ物をした。元々は、2004年に慶應が実施した大学点検・評価に関する資料を見たかった(Web上にある情報では、通信に関する情報も多少あったので、さらに詳しい資料があればと思っていた)のだが、目に付いたのは「慶應義塾年鑑」という資料。この資料、慶應に関するさまざまな統計が載っていて、以前卒業率を算出しようとしたときにもお世話になったものだ。最新の2008年度版があったのでぱらぱらめくってみると、「入学試験」の項目に通信教育課程の欄が。以前見たときは、欄があったとしても合格者数と入学者数しか記載されておらず、あまり意味のないものだったのだが、この2008年版では志願者数からきちんと書いてある。あれっと思って直近数年間の年鑑を見直したところ、どうやら2006年あたりから徐々に載せるようになってきたようだ。これまで入学時の倍率は一切非公開とされてきたが、この資料に当たれば多少は状況がわかるかもしれないと思い、早速メモを取ってきた。

以下の表が「慶應義塾年鑑」記載の通信教育課程の入試状況である。年度によっては「合格者数」や「手続者数・完了者」といった項目にも数値が入っていたが、「合格者数」は「入学許可者数」と同一、「手続者数・完了者」は「入学者数」と同一だったため省略した。なお、「実質倍率」は「受験者数/入学許可者数」であり(年鑑での定義)、「志願者数」と「受験者数」の数値が異なるのは、「通信教育については、入学許可前後に志願を取り消した者を、便宜的に、入学許可前に志願を取り消した(志願者数-受験者数)とみなして掲載。」というためだそうだ(年鑑に注が記載)。また、2007年4月については入学者数の記載しかなかったため除外している。ついでに書くと、年度単位での各部の入学定員は、文学部:3000人、経済学部:4000人、法学部:2000人であるが、志願者数を見ていただければわかるとおり、あまり意味のある数値ではない。

文学部 志願者数 受験者数 入学許可者数 入学者数 実質倍率
2006年4月 450 444 391 391 1.1
2006年10月 248 248 220 220 1.1
2007年4月
2007年10月 311 309 269 261 1.1
2008年4月 608 603 512 494 1.2
2008年10月 326 325 296 280 1.1
2009年4月 567 561 529 512 1.1
           
経済学部 志願者数 受験者数 入学許可者数 入学者数 実質倍率
2006年4月 341 337 285 285 1.2
2006年10月 191 191 167 167 1.1
2007年4月
2007年10月 262 261 239 237 1.1
2008年4月 481 479 423 404 1.1
2008年10月 258 257 223 215 1.2
2009年4月 507 503 443 422 1.1
           
法学部 志願者数 受験者数 入学許可者数 入学者数 実質倍率
2006年4月 353 346 226 226 1.5
2006年10月 171 170 117 117 1.5
2007年4月
2007年10月 247 243 164 157 1.5
2008年4月 421 417 315 304 1.3
2008年10月 215 215 173 168 1.2
2009年4月 398 397 320 307 1.2

 

どうだろうか。やはり噂どおり入学者を絞っていたのかと驚かれる方、あれ?倍率ってこの程度なの?と肩透かしを食らった感でいる方、それぞれだろうか。個人的には、原則全員入学できるものとされている大学通信教育の中で、志願者の一割が入学できないというのは、書類選考しかしていないことも考えるとかなり厳しいと感じた。特に法学部は厳しいようで、2006年の1.5倍という倍率だと志願者の1/3は入学不許可だったということになる。1.1~1.5という数値だけを見るとたいしたことがないように感じるが、上述したようにどれくらいの人が落ちるのかを考えると結構厳しいことがわかるだろう。

一瞬、これは書類不備で不許可になった人も含むのかな、とも考えたのだが、書類不備の場合、普通に考えると志願不受理で志願者数にすら入らないだろう。そのため、この倍率は純粋に選考によるものだと筆者は考えている。ちょうど昨日届いた「ニューズレター慶應通信」特別号に掲載されていた、通信教育課程入学式での清家塾長の挨拶の中にも「入学の審査をきっちりと行い」という文言があったので、ちゃんと選考しているのだろう。恐ろしいことだ。

というわけで、入学を考えている人に多少は役に立つ記事だっただろうか。もちろん、過去記事でも触れたように、卒業は入学と比べ物にならないくらい難しいので、入学を考えている方はその辺も考慮に入れていただければ。では。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:評価(その3 試験)

前回に引き続き慶應通信の話でも。今回が評価についての最後の記事となる予定。最後のテーマは試験の難易度だが、例によって「大学通信教育つれづれ」のsanno氏が直近の記事で的確な指摘をされている。この記事を読めば筆者の記事など読む必要はないのだが、せっかくだから書く。

レポートと比較すると、試験の難易度はそれほど高くはない。少なくとも経済学部の専門科目では、大半の科目がテキストの範囲もしくは履修要項であらかじめ試験出題用と指定された参考文献の範囲から出題されており、履修内容とのギャップは少ない。よって試験対策も、過去問で出題傾向を把握した後は何度もテキストを読んで理解する(暗記する、ではない)ことで、基本的には合格点がとれるだろう。

もちろん例外もあって、経済史のように、それってテキストでは半ページしか記載がないだろ、どうやって論述するんだ、という出題があったり、時事問題と絡めた出題をするようなひねりをきかせたがる科目もあるが、全体としては少数派だ。

試験のレベルとしては基本的な事項を問われることが多いようだ。スクーリングの試験の場合だと講義で触れた多少高度な話題が出る場合があるが(多くはない)、講義という手がかりなくテキストをまんべんなく学習させるテキスト科目では、そこまでやるのは酷だと考えているのかもしれない。

スクーリングの話題に触れたところでスクーリングの難易度についても触れておこう。スクーリングの評価は大半が試験でもあるし。

スクーリングは上でも触れたように基本的に講義の内容からしか試験が出題されないため、難易度はそれほど高くないと思われる。特に夏期スクーリングは期間が短いことと基礎科目の講義が多いこともあって、内容的にもそれほど高度なものが出された記憶がない。密度は濃くてもやはり短期間なので、高度な内容を出しても消化不良になってしまうことを講師の方もご存じなのだろう。「発展的な内容は夜間スクーリングでやります」と公言していた講師もいらっしゃった。結果、筆者の周りでは語学以外で落ちたという話を聞いたことがない。筆者自身も評価はすべてAかBである。ただし語学(というか英語)は当たり外れが激しい。筆者はどちらも当たりの講義だったが、外れを引くと悲惨である。場合によっては最初からあきらめてしまう方がよいかもしれない(英語力をつけるなら外れ科目の方がよいのかもしれないが)。

というわけで、以上で評価についての考察を終える。一言言えるのは、筆者の主観では、理不尽に難しいのは例外的にあるかもしれないが、それ以外はごく普通の難易度だということだ。ただ難易度はその人のそれまでの経験によって感じ方が大きく異なるので、高卒から入学した場合は面食らってしまうかもしれないなあというのは感じる。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:評価(その2 レポート)

さて、昨年4月の科目試験が終わってから書こうと思っていたこの項目も、4月試験が終わり、7月試験が終わり、夏期スクーリングが終わり…とずるずるしているうちに、年度終わりのこの時期まで書かずに引っ張ってしまった。こういう話題で年度をまたいだとたん書かなくなると(しかも丸1年書かずに)、まるで挫折したようで見栄えも悪いので、久々に慶應通信の話題を書いてみる。

まずは、今回の考察に入る前に、1年あいたので筆者の慶應通信での近況を簡単に述べてみる。このブログで書く記事が滞っていた一方で、単位取得自体は順調に進んでいる。先日戻ってきた夜間スクーリングの単位を加えた現時点では取得単位数は115単位(学士入学の一括認定を含む)。あと1単位で卒論以外の単位数を充足するはずだ。ただ、念のために1月試験の結果返却後に成績証明書を発行してもらうつもりである。この点、年度末ごとに成績表を送ってくれてもよいのにと、少し不満に思う部分ではある。現在は卒論執筆中で、順調にいけば今年9月には卒業する(卒業予定申告済み)。このように偉そうな分析をしながら卒業しないのはかなり恥ずかしいので、何とか卒業が見えてきてほっとしているところだ。まあ卒論が行き詰まり中なので、まだ油断できないが。

では分析に入る。前回は主に履修時のシステムについて考察したが、これだけでは慶應の通信教育が特別難しいとはいえないことがわかったと思う。レポートを提出しさえすれば科目試験の受験資格を得、レポートが不合格で返ってきても試験に合格すればレポートの再提出で合格さえすれば再度試験を受けなくてすむ、というシステムは、他の大学通信教育と比較してもそれほど厳しくはない、むしろ緩いくらいだ、というのが前回の話だった。

それでは次に、具体的に課題と採点から難易度を確認しようと思う。とは言っても、筆者は他の大学通信教育を受講したことはないため、相対的な比較をすることは難しい。相対的な難易度の参考としては、以前紹介した「大学通信教育つれづれ」というサイトの「【雑感】レポートの不合格」という記事がおすすめである(無断リンク禁止とあるのでリンクは張らない。各自で検索されたし)。余談だが、「大学通信教育つれづれ」は、以前の記事で紹介してしばらくして、一時的に事実上の閉鎖をしていた。本サイトで紹介したのが原因だったのだろうかと心配していたのだが、再開した際の記事で、本サイトでの紹介を見て再開を決めていただいたという内容を読み、一安心するとともにうれしかったことを覚えている。

というわけで、この記事で比較対象となるのは以前卒業した某国立大の社会学部、そして現在妻が受講している北海道情報大の通信教育課程、という偏った対象となることをご容赦いただきたい。

まずレポート課題の形式について確認する。レポートの必要字数は基本的には4000字以内(例外あり)であり、課題は1~2問程度で「~について述べよ」式になっていることが多い。長文の論述形式だ。これは、筆者が以前卒業した大学では一般的な形式であり、おそらく文系学部全体でも一般的な形式だろう。逆に一応文系に分類されるが理系の色彩が濃い北海道情報大学では、短答式の設問が数十問出されるというチェックテストのような形式が多いようだ。

次に課題の内容であるが、これがなかなかのくせ者である。一般に大学通信教育での通信授業では、テキストの内容が講義代わりであることが前提だろう。ということは、講義内容の理解度を確認するという意味であれば、レポート課題はテキストの内容から出されると考えるのが順当だと思われる。もしくは履修要項に挙げられている指定の参考書でもよいだろう(これは一般的な講義におけるテキストと考えてもよいので)。実際、妻から見せてもらった北海道情報大学のレポート課題も、大半(すべて?)がテキストの内容を理解しているかを確認するものだった。

しかしながら、慶應の課題、特に経済学部の必修科目の場合は、テキスト・指定参考書だけの内容ではレポートで合格点をもらえることは少ない。少なくとも、レポート課題の内容を主題とした専門書を最低1冊は利用しないと、まともなレポートが書けないような課題が多いと感じている。というのも、経済学部必修科目は基礎科目であるため、テキストや指定参考書では基本的な項目が網羅的に述べられている一方で、一つ一つの項目についての掘り下げはさほど深くない。これに対して、レポート課題は特定の項目について深く掘り下げた考察を求めているものが多いのだ。

実際に、筆者は経済原論や経済政策学(今はテキストが書き換えになって新経済政策学となっているので今の事情はわからない)のレポート作成において、テキストと指定参考書のみを利用して作成をしたところ、それらテキスト・参考書には記載されていない深さを要求されてD判定(不合格)となった。特に経済原論では、普通の入門書レベルではまず出てこない項目にまで言及するようコメントが記載されていてびっくりしたのを覚えている(入門書と銘打った書籍でこのレベルまで記載されていたのは、私の知る限りゼミナール経済学入門(福岡正夫)のみ。噂では通学課程の学生のテキストらしい)。

というわけで、こと経済学部必修科目に関する限りは、テキストの履修内容とレポート課題とにレベルのミスマッチがあるのが、「高い難易度」の最大の原因であると考えられる。この証拠に、レベルとしては発展系と位置づけられる経済学部の選択科目では、レポート課題に密接に関連した参考文献が挙げられていることが多く、内容が高度な割にレポートは合格しやすい。

あとは、レポートの形式が整っていないと低い評価になりやすいというのが特徴だろうか。たとえば引用の仕方や参考文献が適切に挙げられているか、また序論-本論-結論といった文章の構成がきちんとなされていないものに関しては不合格となる場合が多いようだ。ただこれは、形式さえ整えておけばまずはクリアできるものなので、難易度が高いというほどのものではないだろう。逆に形式にうるさいと言うことは、それだけ形式に則っていないレポートが大量に提出されていて、採点者がいらいらしているだろうことが想像できる。

以上が、筆者の考える「レポートが厳しい」という噂の実態である。ただ、筆者が経験したのはあくまでも経済学部の学部科目のみである。慶友会の人の話では総合科目が一番の鬼門とも聞くので、レポート難易度はこうだという断言は、筆者は未だにできていない。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:評価(その1 システム)

 先日、1月の科目試験が返ってきた。結果は、まず無理だろうと思っていた統計学がAだった一方で、前回は落としたが今度は大丈夫だろうと思っていた人口論が再びDという、二重の予想外な結果だった。おかげで4月受験予定の科目が1つ受けられなくなった。さらに、これまでささやかな自慢だった、レポートも試験も同一科目を2回落としたことはないという記録も途絶えてしまった。残念。
 気を取り直して、前回からちょっと間が空いてしまったが、今回からは単位取得が難しいと言われている慶應通信の評価について考えてみたい。今回は、その単位取得のシステムについて考えてみる。
 まず、科目を履修して単位を修得するまでの過程をおさらいしてみる。慶應の通信教育では、年度初めの履修登録というものがない。自分のテキスト配本年次(実質的な学年)を確認し、履修可能な科目であればレポート課題に従ってレポートを提出し、それが受け付けられた時点で(評価とは無関係に)履修と見なされるようだ。塾生ガイド(年度初めに配布される通信教育課程生への案内冊子。学生便覧。)を筆者が読んだ限りでは「履修」の定義は書いていなかったが、不可レポートの再提出期限が切れてから再度レポートを出し直すことを「再履修」と呼ぶことから、おそらくレポートを提出することをもって履修とするのではないかと思う。他大学では通信教育でも年度初めに履修登録を行う必要がある大学もあるようなので、履修についての制限は緩い方だと思う。
 ちなみに、この「登録をせずとも履修」というのがもし通学課程で可能であるならば、それは相当単位取得が楽な大学だと言ってよい。筆者が以前卒業した通学課程の大学は「卒業が楽な国立大学東の横綱」などと在学当時に揶揄されていたが、その理由の一つは、時間割が全部埋まるまで好きなだけ履修登録ができるとことにあった(ただし、筆者入学の前年からだったと記憶している)。しかし、筆者の2学年下から年間の履修登録科目数に再び制限が設けられ、これだけでかなり単位取得が厳しくなったようだ。そして、この大学をしのぐ西の横綱と呼ばれていた京都大学は、同期入社の卒業生に聞いたところでは履修登録すらないという話だった。ちなみに去年読売新聞が実施した調査では、京都大学の4年卒業率は92.3%だそうで、平均の84.6%よりかなり高い。この履修登録という縛りがいかに単位取得を難しくしているかを物語っていると思う。
 このレポート提出(=履修)によって科目試験の受験資格が得られる。このとき、レポートの評価は関係ない。戻ってくるまで待つ必要もない。事務局に受け付けられていれば受験可能なのだ。しかも、科目試験合格後にレポートがD(不可)で戻ってきても、6ヶ月後の再提出期限以内にレポートを再提出すれば、科目試験の合格を取り消されることもない。これも他の通信制大学によっては、科目試験の受験資格をレポート合格に限ったり、レポートが不合格であれば科目試験の合格を取り消されるところもあるようなので、制度的にはかなり緩い方だと思う。
 その代わり、と言っては何だけど、科目試験の受験時に若干の制限がある。科目試験は3ヶ月に1度、土日の2日間に分けて実施されるのだが、その際に科目群としてA~Fまでの6群が設定され、時間割は各群ごとに1科目ずつ試験が実施されることになる。つまり、土曜の1限はA群の試験、2限はB群、3限はC群、日曜は各時限それぞれD~F群といった具合だ。そしてそれら科目群内の科目が別の群に移動することは基本的にはない(少なくとも筆者の入学以来無いと思う)。このため、ある履修科目が試験で落ち続けて合格できないでいると、いつまでたってもその群の他の科目を受験できないことになる。
 例えば、筆者は今回F群の人口論を落としたが、これによって既にレポートを提出している同じF群の会計監査が次回試験で受けられなくなった(もちろん、人口論をいったん休んで会計監査を先に受けてもよいが、どちらにしても両方受けることはできない)。
 また当然ながら、1回の試験での受験科目数の上限は6科目となる。これを考えると、実質的に履修縛りはあると言ってよいだろう。
 というわけで、結論としては、一見履修の縛りが緩く履修が楽なように感じられるが、よくシステムを眺めると、きちんと履修縛りに値する仕組みが組み込まれており、それほど楽でもないことがわかる。
 次回はいよいよ「難関」という噂の根幹をなす、レポート・試験の課題と採点について考えてみる。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:テキスト

 前回は、次回はレポートの評価について書くと予告していたのだけれども、やはり評価関連は主観が入ってきてまとめるのが難しかったので、今回はテキストについての話を先に書こうと思う。
 よく2ちゃんねるなどの煽り系掲示板で嘲笑されているのが、慶應通信のテキストが古すぎる、旧仮名遣いで古典のようだといったものである。これについては入学当初から疑問に思っていた。少なくとも筆者が入学した時点で経済学部の教科書で旧仮名遣いだったのは「憲法(E)」だけだったし、これについても数年後に全面書き換え(市販書に移行)したため、現在は廃止になっている。まあ確かに、1科目でも旧仮名遣いのテキストが残っているのは驚異的だともいえるし、その他の科目でも古いテキストが散見されるので上述したように言いたい気持ちもわかるのだが、一方で改訂・全面書き換えしているものも多くあるので、放置しているというほどではないのではと思っていた。
 ただ、単に古いとかそうではないとか言っているだけでも芸がないので、今回もちょっと調べてみた。幸い、2008年度の塾生ガイドにはテキスト一覧が市販書も含めて掲載されている。手元のテキストと併せて確認したところ、これに掲載されているテキスト番号のうち、ハイフン以下の4桁数字の上2桁が、科目新設・全面書き換え時の西暦の下2桁になっているようだ。たとえば今手元にある経済数学のテキストは「E001-4904」となっているので、初版発行が1949年となる(ちなみに、このテキストは1997年に改訂されているため、内容はあまり変えていないそうだが古くささは全くない)。塾生ガイドにはさらに1989年4月以降の改訂・書き換えの年月も記載されているため、少なくとも最近20年についてはテキストの発行年を特定することができる。それ以前に改訂があった場合はわからないが(改訂があったときはテキスト番号の末尾が2以上になっているようだが、いつ改訂されたまではわからない)、あったとしても少なくとも20年以上前の改訂になるということで、今回は割り切ってテキスト番号を発行・改訂年として扱った。
 なお、市販書採用科目については、最近までは市販書の発行年をテキスト番号にしていたようだが、2007年くらいから科目新設・書き換え年をテキスト番号にするよう変更したようだ。まあどちらにしても、市販書の場合は別途発行年一覧が掲載されているので、そちらの記述に従い、テキスト番号は採用していない。
 というわけで、総合・各学部ごとにまとめたテキスト発行・改訂年が以下の表となる。

分類 科目名 発行・改訂年 市販書
総合教育科目 哲学 2003  
  論理学(A) 1979  
  文学 1976  
  歴史(日本史) 1995
  歴史(東洋史) 1971  
  改訂・歴史(西洋史) 2008  
  法学(憲法を含む) 1984  
  政治学(A) 2000  
  経済学 1981  
  新・社会学 2004
  統計学(A) 1994  
  数学(基礎) 2000  
  数学(微分・積分) 1985  
  数学(線形数学) 1997
  地学 2006  
  物理学 1996  
  化学 1996  
  生物学 2005  
  英語I 2000  
  英語II 2001  
  英語III 2000  
  英語VII 1989  
  ドイツ語第一部 1973  
  ドイツ語第二部 1980  
  ドイツ語第三部 1975  
  ドイツ語第四部 1988  
  フランス語第一部 1990  
  フランス語第二部 1995  
  フランス語第三部 1977  
  フランス語第四部 1995  
  新・保健衛生 2007  
  体育理論 2006  
文学部第一類 西洋哲学史I(古代・中世) 1988  
  西洋哲学史II(近世・現代) 1953  
  論理学(L) 1977  
  科学哲学 2004  
  倫理学 1989  
  現代倫理学の諸問題 1978  
  日本美術史I 1972  
  社会学史I 1997
  社会学史II 1995
  社会心理学 2003  
  都市社会学(L) 1999
  心理学I 1979  
  心理学II 1977  
  教育学 1993  
  教育心理学 1986  
  教育史 1982  
  教育思想史 1979  
  教育社会学 1995  
  心理・教育統計学 1992  
文学部第二類 史学概論 1974  
  歴史哲学 1967  
  日本史概説I 2003
    1996
  日本史特殊I 2004  
  日本史特殊II 1992  
  新・日本史特殊IV 2003
  古文書学 1949  
  東洋史概説I 1976  
  東洋史概説II 2003  
  東洋史特殊 2006  
  西洋史概説I 1972  
  西洋史概説II 1988  
  西洋史特殊I 1972  
  西洋史特殊III 2002  
  オリエント考古学 1991  
  考古学 1988
  地理学I(L) 1962  
  地理学II(地誌学)(L) 1973  
  人文地理学 2005  
文学部第三類 国語学 1949  
  国語学各論 1968  
  国文学 1977  
  国文学史 1959  
  近代日本文学 1995  
  国文学古典研究I 2004  
  国文学古典研究II-1 1965  
  国文学古典研究II-2 1969  
  国文学古典研究III 1977  
  国文学古典研究IV 1994  
  国語国文学古典研究V 1975  
  書道 1977  
  中国文学史 2000  
  漢文学I 1996  
  漢文学II(論語) 1962  
  漢文学III(孟子) 1960  
  新・現代英語学 2007  
  英語学概論 1992  
  英語音声学 1950  
  英語史 2003  
  ACADEMIC WRITING I 1998  
  ACADEMIC WRITING II 1999  
  現代英文学 1977  
  英文学特殊 1992  
  中世英文学史 1976  
  近世英文学史 1977  
  イギリス文学研究I 2004
  イギリス文学研究II 1976  
  イギリス文学研究III 1979  
  アメリカ文学 2003
  アメリカ文学研究I 1976  
  アメリカ文学研究II 1969  
  シェイクスピア研究 1977  
  新・日米比較文化論(総論) 2004
  近代ドイツ小説 1997  
  近代ドイツ演劇 1996  
  十九世紀のフランス文学I 1996  
  十九世紀のフランス文学II 1998  
  二十世紀のフランス文学 1983  
  新・ロシア文学 2007  
  ラテン文学 1984  
経済学部 経済原論(E) 1995  
  新・経済政策学(E) 2008  
  経済史 1997  
  財政論(E) 1976  
  金融論(E) 2003
  経営学(E) 1994  
  経済変動論 1995  
  新・国民所得論
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2008  
  計量経済学 1995
  経済数学 1997  
  日本経済史 1973  
  西洋経済史(中世) 1978  
  西洋経済史(近世) 1992  
  社会思想史II 1976  
  社会政策(E) 1993  
  国際貿易論 1997  
  人口論 2000
  世界経済論 1999
  都市社会学(E) 1999
  産業社会学(E) 1975  
  地理学I(E) 1962  
  地理学II(地誌学)(E) 1973  
  経営管理論 1985  
  経営分析論 1991  
  経営数学 1976  
  商業学 2001
  保険学 1995  
  新・会計学(E) 1998
  簿記論 1976  
  原価計算 1997
  会計監査 1983  
  憲法(E) 2000
  民法 2008
  労働法(E) 1954  
  経済法(E) 2005
  新・会社法(E) 2006
法学部 憲法(J) 2000
  改訂・民法総論 2007
  刑法総論 2004
  法哲学 1954  
  日本法制史I(古代) 2003  
  国際法I 1999
  国際法II 1998  
  行政法 2005
  新・物権法 2007
  債権総論 2005  
  債権各論 2004  
  親族法 2000  
  相続法 1970  
  新・会社法(J) 2006
  商法総則・商行為法 2007
  保険法・海商法 2004
  手形法 2003
  新・刑事政策学 2008
  刑法各論 2007
  民事訴訟法 2005
  破産法 2006
  新・刑事訴訟法 2007  
  国際私法 1950  
  労働法(J) 1954  
  経済法(J) 2005
  英米法 1979  
  政治学(J) 1972  
  政治哲学 1976  
  日本政治史I(古代) 1977  
  日本政治史II(中世) 1985  
  日本政治史 1972  
  ヨーロッパ政治史 1972  
  アメリカ政治史 2005
  ロシアの政治 2005  
  現代中国論 1999
    2004
  日本外交史I 1973  
  日本外交史II 1993  
  西洋外交史 1998  
  政治思想史III 1998  
  ヨーロッパ中世政治思想 1998  
  コミュニケーション論 2006  
  産業社会学(J) 1975  
  経済原論(J) 1995  
  財政論(J) 1976  
  金融論(J) 2003
  新・経済政策学(J) 2008  
  社会政策(J) 1993  
  経営学(J) 1994  
  新・会計学(J) 1998

 これを見た限りでは、学部によってかなり差があるが、それほど古いテキストだらけではないような気がする。そこで、もう少しわかりやすいようにこれをヒストグラムにしてみた。
 まず、単純に古いものから10年刻みで順に集計し、総合教育・各学部科目別に積み重ねてグラフを作ってみた。それが以下のグラフだ。
発行年別テキスト数
 次に、テキストの古さの度合いが学部ごとに偏っているような気がしたので、学部別にテキストの古さの度合いを集計してみた。それが以下のグラフだ。
総合科目・学部科目別テキスト発行年割合
 これらのグラフを見てまずわかることは、やはり言われているほど古いテキストは多くないという点だ。確かにまだ多少残っているのは残念だけれども、少なくとも半分以上は平成に入ってからの発行・改訂であるし、近年も発行・改訂のペースは鈍っていない。ちょうど昨日、2月のニューズレターがうちに届いたが、2009年度も多くの科目が全面書き換えとなっていた。たとえば古いものでは1962年発行の地理学Iも全面書き換えとなる。いずれ大半の科目テキストは最新のものになるのではないだろうか。
 次いで確認できるのは、文学部のテキストの古さだ。他の学部では6~7割が平成に入ってからのテキストで、総合教育科目も6割近くが平成に入ってからのものである(80年代以降に広げると8割近く)。その一方で文学部のテキストで平成以降に発行されたものは半分に満たない。上の表を見ると特に第三類のテキストの古さが目立つ。これは内容が文学史や古典研究といったものだから、社会の変化に伴って改訂が必要になる経済学部・法学部と比較すると改訂の必要性が低いと判断されているのだろうか。また、市販書採用科目も極端に少ない。経済学部は36科目中12科目が市販書を採用し、法学部は49科目(テキスト数は50)中、19科目(テキスト数は20)で市販書を採用している一方で、文学部は79科目(テキスト数は80)中、市販書採用科目はわずかに9科目(テキスト数は10)である。
 慶應通信の在学生で最も多いのは文学部だ。テキストの古さについて話題に上るのも、文学部のテキストが古いことに由来するのではないだろうか。
 なお、テキスト発行年の山が近年のほかに1970年代にもできているのは興味深い。以前紹介した奥井晶氏の著書によると、1974年度から1978年度にかけて、通信制を実施していた各大学に文部省が補助金を出し、古いテキストの全面改定を行ったと記載されているため、そのときの科目なのだろう。大学通信教育の歴史も垣間見ることができた。
 というわけで、この噂についての筆者の結論は以下の通り。確かに古いテキストはまだ残っているが、特に経済学部と法学部において改訂は進んでいる。今後も、古いテキストで問題ないと判断されているような文学部の一部科目を除いては、テキストの改訂は進んでゆくのではないだろうか。
 なお、筆者は慶應通信のテキスト科目における学習のしづらさは、テキストの古さよりももっと別のところにあると考えているのだが(これは奥井氏も指摘している)、それはまたいずれ書きたいと思う。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:レポート

(前回まではちょっと文体が硬かったので、もう少し普通に書きます)
 土日は慶應通信の科目試験の日。筆者は日曜日に妻が出かけるために娘のお守りをしなければならなかったので土曜日のみ受験したんだけど、全然だめだったね。特に統計学。さすがに公式もろくに覚えずに受けたのは無謀だった。問題用紙に公式が書いてあると聞いていたんだけど、全部書いてあるわけではなかったのね。次回がんばります。
 ところで、慶應の通信がなかなか卒業できない理由の一つとして、レポートの返却がすさまじく遅いというものがある。まず数ヶ月かかるのが普通で、遅いと1年くらい待たされるといった話がWeb上のいろんなところに書いてある。20世紀の終わりくらいにはそれで訴訟まで起こされたようだ。ちなみに訴訟を起こしたのは以前に著書を紹介したライターの松本肇氏で、リンク先のサイトでネタばらしをしているけど、この噂を聞いて、始めから噂が本当なら訴えてやろうと思って入学したそうだ。氏の他の著書を読んでも思うけど、やっぱりライターの行動力はすごい。ちなみに筆者はこの訴訟の後でレポート返却期間がかなり早く(ましに)なったという話を松本氏のサイトで読んで入学を決めたので、氏は筆者を慶應に導いてくれたある意味恩人だったりする。
 では、実際のところ現在の慶應通信のレポート返却期間はどれくらいなのだろうか。筆者はレポートの評価とともに返却期間もメモして表にしているので、そこから現在のレポート返却状況について考察してみる。
 まず、以下の表が筆者がこれまで提出したレポートとその返却状況だ。これを見て、「2003年入学のくせにまともにレポート出し始めたのはここ2年くらいじゃないか」と自分につっこみを入れたくなるけど、それはぐっと我慢。これをご覧になった方は、とりあえずこんないい加減なやつでも慶應通信を続けていられるんだと思っていただければ。

科目名 年度 提出回 受付日 提出締切日 締切差 返送日 採点期間 評価
経営管理論 2005 1 2005/09/05 2005/09/05 0 2005/12/02 88 C
産業社会学(E) 2005 1 2005/12/05 2005/12/05 0 2006/01/20 46 B
保険学 2005 1 2006/03/06 2006/03/06 0 2006/04/19 44 B
経営学(E) 2006 1 2006/05/22 2006/05/22 0 2006/08/09 79 D
会計学(E) 2006 1 2007/05/10 2007/05/28 18 2007/05/25 15 A
金融論(E) 2007 1 2007/05/17 2007/05/28 11 2007/06/29 43 A
経済史 2007 1 2007/07/03 2007/09/03 62 2007/07/18 15 D
経済史 2007 2 2007/07/23 2007/09/03 42 2007/08/10 18 B
経営学(E) 2007 1 2007/07/23 2007/09/03 42 2007/08/31 39 B
統計学(A)第1回 2007 1 2007/08/01 2007/09/03 33 2007/08/15 14 A
経済原論(E)前半 2007 1 2007/08/27 2007/09/03 7 2007/09/28 32 D
経済原論(E)後半 2007 1 2007/09/03 2007/09/03 0 2007/10/19 46 B
簿記論 2007 1 2007/11/20 2007/12/03 13 2007/12/05 15 A
経済原論(E)前半 2007 2 2007/12/19 2008/03/03 75 2008/02/13 56 B
経済政策学(E) 2007 1 2008/05/26 2008/05/26 0 2008/08/27 93 D
国民所得論 2007 1 2008/07/14 2008/09/01 49 2008/08/27 44 A
財政論(E) 2008 1 2008/08/01 2008/09/01 31 2008/10/08 68 C
人口論 2008 1 2008/08/27 2008/09/01 5 2008/10/31 65 A
経済政策学(E) 2007 2 2008/10/07 2008/12/01 55 2008/11/07 31 B
都市社会学(E) 2008 1 2008/11/26 2008/12/01 5 2008/12/10 14 A
統計学(A)第2回 2008 1 2008/10/28 2008/12/01 34 2008/12/10 43 A
統計学(A)第4回 2008 1 2008/11/20 2008/12/01 11 2008/12/12 22 A
統計学(A)第3回 2008 1 2008/11/07 2008/12/01 24 2008/12/17 40 A
会計監査 2008 1 2009/01/07 2009/03/02 54 2009/01/16 9 A

 この表で、「受付日」と「返送日」はそれぞれ返却されたレポートの「受付年月日」「返送年月日」に押された印の日付(おそらく「受付年月日」は消印の日)で、「提出締切日」は直近の科目試験のためのレポート締切日、そして「採点期間」は「受付日」と「返送日」の差で、「締切差」は「受付日」と「提出締切日」の差である。まず「採点期間」をざっと見ていただくと、ばらつきはあるけれどもだいたい1ヶ月強くらいで返却されていることがわかると思う。もう少しちゃんと計算してみると、
レポートの平均返却期間:41日 標準偏差:24.27
となる。
 この段階で、噂ほどはレポートの返却は遅くないことがわかると思う。唯一事務局が目安としている(これ以上遅かったら連絡をくれと言っている)3ヶ月を超えてしまったのが経済政策学の93日だが、まあ1日だけだし(大の月を2回挟んだので)、許容範囲ではないかと思う。
 というところで今回は終えてもいいんだけれども、せっかくここまで表を作ったのでもう少し分析してみる。まずもう少し分野別に平均を出してみて、差がないかどうか見てみた。とりあえず合格・不合格、また必修・選択科目で分けて平均を出してみると、以下の通りとなった。
合格レポート:38日
不合格レポート:55日
必修科目:43日
選択科目:38日
 これだと必修と選択の差はあまりないように思える。一方で合格と不合格ではレポート返却期間に差があるようだ。そこで、せっかく統計学の勉強をしたので、評価と返却期間について相関係数を求めてみることにした。今回は評価のA~Dをそれぞれ1~4と割り当てて計算した。すると、相関係数は0.49619となった。だいたい中くらいの相関なのかな。統計学のテキストによると、自由度22(標本数24から変数2を引いた数)の5%有意水準は0.404らしいので、有意な相関といえると思う。といっても先日のテストをおそらく落としている筆者が偉そうにいえるものではないけど。
 ついでに、締切ぎりぎりに出した方が、レポートが殺到していて採点が大変で返却が遅れるのではないかと思ったので、これも相関係数を求めてみた。すると締切差と採点期間の相関係数は-0.3577。どうやら有意な相関ではないようだ。
 というわけで、どうやら返却が遅いほどレポートの評価は期待できないようだ。さんざん待たされたあげくに帰ってきたレポートはD。うーん、これはダメージが大きい。
 なお、上の表には入れていないけど、もっとはっきりと返却期間の傾向がわかるものがある。それが採点者だ。たとえば経済史の第1回提出と再提出の採点者は同じ先生だが、返却期間が15日、18日ととても早い。また会計学と会計監査の採点者も同じ先生だが、返却期間は15日と9日(!)だ。ただこれも、たとえば統計学の第1回と第3回の採点者は同じ先生だが、返却期間は14日に40日で全然違っていたりと、確実な法則とはいえない。
 というところで、筆者の結論は「レポート返却は噂ほど遅いとはいえず、(少なくとも筆者にとっては)レポート返却の遅さによって学習に支障が出たことはない」というものだ。ただ大学によっては1ヶ月以内のレポート返却が決まっていたり、レポート返却予定日がWeb上で確認できたりするところもあるようなので(以前どこかの大学のWebサイトで見たことがあるが、どこの大学かは忘れてしまった)、今の慶應の状態がベストではないと言うことも押さえておきたい。
 では次回は、レポートについてのもう一つの噂、「レポートの採点が厳しい」というものについて考えてみたい。でもこれは結構難しいんだよね。人によって感じ方が違うと思うし、客観的に表すことができないと思うので。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:卒業率(その2)

 それでは、筆者の考察(ともいえない妄想)を書くこととする。それにしても、科目試験まで一週間を切っているというのにこのような駄文を書き連ねているのは明らかに時間の浪費なのだが(しかも毎朝出勤途中に会社近くの喫茶店に寄って書いている)、中途半端に終わっていると落ち着かないので。
 まずこの表の全体を集計すると、通信教育課程が始まってから現在までの卒業率が約5%ということがわかる。この卒業率は噂でよく出てくる割合とほぼ一緒である。しかしながら、これは通信教育課程発足直後の現在とは全く環境が異なる時代の数値も含んだものであり、直近ではどうなのかがぼやけてしまっているように感じる。そこで、もっと単純にその年度の卒業者数を入学者数で割った割合を「単純卒業率」として出してみる。
 当然ながら、入学者がその年度にすぐ卒業することはあり得ないので、この「単純卒業率」は正確な卒業率を表してはいない。ただ、分母である入学者数が安定しているのであれば、ある程度実態を反映しているのではないかと思って出してみた。これを見ると、発足直後は除いてしばらくは5%を超える卒業率であるが、1970年代には5%を切る低迷期が続き、その後1980年代はほぼ5%で横ばい、そして1990年代後半以降は急に卒業率が跳ね上がり、直近では20%前後の卒業率となっていることがわかる。
 しかしながら、この直近の高い卒業率はあまり実態を表していないだろう。この時期、入学者数がそれまでの3000人台から一気に1500人程度まで激減し、先ほど書いた安定した入学者数という前提を満たしていないからである。たとえば直近の2007年度について考えてみると、「ニュースレター慶應通信2008年春季特別号」に記載された卒業生の在籍年数は、12.5年以上(つまり最長在籍年数までに卒業できず、再登録して卒業した人)が1/3の101名となっている。この人たちが入学したと思われる13~16年ほど前の入学者数は5000人前後もいる。これだけを見ても、この「単純卒業率」があまり当てにならないことがわかる。
 ただ、そうはいっても近年卒業率が急速に改善されているだろうことは想像ができる。1980年代までは200人前後で安定していた卒業者数が、直近15年ではほとんど300人を超えているためである。今後、入学者ラッシュの影響がなくなった後の卒業者数がどのように推移するのかは興味深い。
 また、もう一つの注目点は「退学率」である。通算の入学者数・卒業者数と現在在籍者数から退学者数=入学者数-(卒業者数+在籍者数)を算出し、そこから退学率=退学者数/入学者数を求めると、実に90.7%にも上る。この数値も直近ではなく通信教育発足以来の通算であるが、いかに途中で挫折する人が多いかの傍証にはなるであろう。
 さて、このように慶應の卒業率について考察してみて、絶対的に卒業が難しいことはわかったが、他の大学と比較して卒業は難関なのであろうか。直近で入手できるデータとして平成20年度学校基本調査があるが、これによると大学通信教育の正規課程在学者数は185,719名、平成19年度中の卒業者数は16,232名となり、これで求められる「卒業者/在学者」率は8.7%となる。同じ計算を慶應でも行ってみると、平成19年度在学者数9,383-1,202=8,181名、卒業者数323名であり、「卒業者/在学者」率は3.9%となる。どちらも厳しい数字だが、このように比較すると、やはり慶應通信の卒業の厳しさは際立っている。
 以上で卒業率についての考察はとりあえず終える。やはり中途半端なデータだけで判断するのは難しい。ただ、慶應にしても他大学にしても、通信教育で卒業するまでこぎつけるのはかなり大変だというイメージは持ったのではないだろうか。
 次回以降は、なぜ慶應通信の卒業が難しいのかという点でよく挙げられる噂である、「レポートの返信が遅い」「採点が厳しい」について考えてみる。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:卒業率

 慶應の通信教育課程における噂でもっともよく聞くのは「低い卒業率」であろう。曰く、一割もない、いや5%だ、いや3%だ、といったような話は、慶友会などの通信仲間での会話や慶應通信を扱ったブログを閲覧するとよく出てくる。
 しかしながら、実際はどうなのだろうか。これがなかなか難しい。まず大学が卒業率を公表していない(Webサイトの「入学者Q&A」を参照)。そもそも卒業率の計算をどう行うのかによって数値も異なってくる。たとえば日本福祉大学通信教育部は高い卒業率をアピールしているが、ここで使用されている卒業率は4年次在籍者卒業率である。また、中央大学通信教育課程のWebにあるFAQでもこの計算式を使用している。この計算式が表すのは、年次的にもう卒業可能になっている学生の中からどれくらい卒業生が出ているかの数値であり、たとえば通信教育について行けずに1年で中退した学生についてはこの母数には含まれない。確かに大学から見ると興味本位で入学してすぐ退学する学生を数に含めたくないという気持ちはわかるのだが、筆者を含め通信教育の受講を考えている人間が知りたいのは、このような学生も含めた卒業率ではないだろうか。まあそもそも慶應では4年次在籍者(慶應の場合は学年制をとっていないと明言しているので、テキスト配本完了年以降の在籍者とでもなろうか)の人数は公表されていないため、この計算式をとることはできない。
というわけで、慶應で公表されている数値を用いながら、できるだけ卒業率に近いものを求めようと、去年の夏頃に少し調べてみた。慶應では、通信教育発足50周年を記念して1998年に「慶應義塾大学通信教育部の五十年」という本を出版している。この巻末に通信教育が誕生した1948年から1997年までの入学者数と卒業者数が記載されている。これに、1998年以降の「ニューズレター慶應通信」(毎月通信生に配布される学内連絡用の冊子)各号の中で入学者数・卒業者数が記載されたものをメモして表にまとめてみた。
ただこれが意外と大変だった。筆者が入学したのは2003年であるため、それ以前のニューズレターは大学図書館で閲覧したのであるが、ここで集計した数値のうち、1998年~2000年の入学者数が、2008年春季特別号に記載されている年度別の入学者数と一致しない(春季特別号では全体数を集計している。今回は学部別の数値をまとめたかったために過去のニューズレターをあたった)。具体的にはすべて数十人多くなってしまう。数え間違いかと思ってもう一度図書館に行って1998年のものだけ数えなおしたが間違いはない。おそらくニューズレターに発表されなかった入学辞退者でもいたのだろうとあきらめ(でも2001年以降は一致しているのだが)、学部別と全体集計とで別々の値を用いることで妥協した。
このようにまとめたのが、20090114-stat_graduate.pdfである。とりあえず眺めていただきたい。次回にこの集計値についての筆者の考察をまとめてみる。

慶應義塾大学通信教育課程:概要

これまでも書いてきたとおり、慶應の通信教育課程はもっとも古い大学通信教育の一つであり(法政に次いで2校目)、それゆえ採用している制度はもっともオーソドックスなものであるといえる。以下、簡単にその特徴をまとめる。

  • 学費が低廉である。
  • 基本的な学習手順は以下の通り。
    1. テキスト・参考書を読む
    2. レポートを作成する(科目によって異なるが、基本的には4000字以内)。
    3. レポート提出・受付の時点で科目試験受験資格が発生
    4. 科目試験を受験
    5. 試験・レポートがともに合格した時点で単位取得
    6. 卒業所用単位の1/4はスクーリング(要するに普通の講義)で取得
    7. 一定の条件(所得単位等)を満たすと卒業論文指導を受けて卒論作成開始
    8. 半年ごとに卒論指導を受け、提出可能となれば卒論提出
    9. 卒業所用単位の充足・卒論の提出が終わると最後に卒業試験(卒論審査と面接試問)を受け、合格であれば卒業
  • 大学側からのサポートは薄い。科目試験の受験から卒業の申告まで基本的にはすべて学生側からのアクションによって実施される。
  • その代わり学生の自主的な集まりである「慶友会」をサポート

とりあえずこんなところにしておくが、要するに「学士となるための道筋(カリキュラム)とリソースは用意した。これをどう利用するのかはあなた次第だ。」というのが大学側のメッセージであろうか。ある意味突き放した姿勢である。
さて、この慶應の大学通信教育であるが、日本屈指のブランド私大が実施していることもあって、インターネット上には様々な噂が流れている。この中には、当然ながら確かにそうだと頷けるものから本当にそうだろうかと首をひねるものまで様々なものがある。次回以降は、これら噂を、筆者のこれまでの体験と資料から検証していきたいと思う。しかしながら、当然ながら筆者はこの通信教育の全貌を把握しているわけでもないし、まだ卒論指導を受けている段階で卒業すらしていない。また、慶應通信以外には通学課程の大学を1校卒業しているのみであり、他の通信教育や通学課程との比較が適切にできるかどうかもわからない。というわけで、今後記載する事項は、あくまでも筆者の主観であるということをあらかじめご承知願いたい。
その代わりに、筆者が有用だと感じた通信教育に関するWebサイトをいくつか紹介する。
大学通信教育つれづれ
9つの大学通信教育を体験されている方が通信教育の特徴について記載されているブログ。慶應通信も卒業されているが、かなり昔であるため記載内容に現状と異なる点もあるが(ご本人もその旨断りを入れている)、実際に体験した上での各大学の通信教育比較はほかにできる方がなかなかいないため、とても参考になるサイトである。
ようこそ!アトランティスへ
2007年に慶應通信を卒業されたアトラン氏によるサイト。氏は他の通信教育も体験されており、それらと比較した現在の慶應通信の内容が豊富に記載されている。何より氏のエネルギッシュな姿勢がにじみ出たテキストを読むと、こちらもやる気にさせてくれる。
通信制大学体験記
1994年に慶應通信を卒業された方のサイト。これも情報は古いのだが、慶應通信での勉学の仕方が網羅されていて、非常に参考になる。筆者はこのサイトを読んで慶應通信に入学しようと決意した。
以上、例によって次回も更新間隔は長いと思うが(もうすぐ科目試験でもあるし)、今後ともご愛読いただければ幸いである。

大学通信教育の例:早稲田大学

あけましておめでとうございます。今年もこのWebの極北で、誰が読むともしれないくだらない情報を気まぐれに更新し続けようと思います。
 さて、前回は早稲田の通信教育にふれると予告したが、これ以上自分が関わっていない組織の話を書いたところで有意義な情報にはならないと判断し、簡単に述べるにとどめる。
 早稲田は慶應と並ぶ私学の名門大学だが、大学通信教育の発祥に深く関わり、現在も基本的には発足時のスタイルを堅持している慶應と比較して、早稲田の通信教育課程が発足したのは2003年と最近であり、そのスタイルも慶應とは全く異なる。
 具体的には、eスクールを標榜しているところからわかるとおり、講義の動画配信から議論用BBS、レポート提出までインターネット上で完結していること、少人数制であり、学生個々のサポートに力を入れていること、書類審査に加えて面接も課して学生の選抜を行っていること(2008年度の倍率は1.91倍)、通学課程並みに高い学費(4年で約450万円)などである。
 これが意味するのは何か。それはすなわち、通学課程の完全な代替である。実際、パンフレット等を見ても従来の通信教育とは一線を画し、通学と同等以上の質の教育を届けるという姿勢がはっきりとうたわれている。
 では、なぜ早稲田は今になってこのような通信教育を始めたのだろうか。筆者が考えている理由は二つ。一つは制度的・技術的制約から解放されたためである。以前のエントリーでも触れた、1991年の大学設置基準大綱化以降の規制緩和の流れ、およびICT(情報通信技術)の急速な発展により、インターネットを用いた通信教育のみで学部教育を完結できるようになってきたこと。新規に通信教育を実施するのであれば、当然これらの状況を利用しない手はない。これは他の大学でも同様で、ここ数年で新規開講した大学通信教育は、インターネット経由のe-learningを売りにしているところが多い。
 もう一つは早稲田特有の事情である。そもそも、慶應が戦後に通信教育を発足させた大きな理由として、勤労青年へ高等教育を提供するというものがあった。早稲田も同じく戦後すぐに勤労青年への高等教育提供を始めたのだが、その手段は夜間部(二部)として提供するというものだった。
 しかしながら、高度経済成長を経て日本社会が成熟するとともに、高等教育の勤労青年からの需要は減少し(そもそも勤労青年自体が減少した)、変わって生涯学習としての高等教育の需要が増大していった。時間と空間の制約が少ない通信教育はこのニーズにある程度応えることができたが、どちらも制約のある夜間部はこれに応えることが難しい。そのため、近年各大学の夜間部は軒並み廃止・再編されてきている。早稲田も例外ではなく、社会科学部(1966年に社会科学系の二部を統合して誕生)は1998年に昼夜開講制となり、2009年度からは完全に昼間部に移行する。また第二文学部は一足先に2007年に文学部に統合され、募集を停止している。この廃止された夜間部の受け皿となるためにも、通信課程は夜間部すなわち通学課程と同等以上の質を保たなくてはならないのである。逆に言えば、通信課程に託す目処がついたからこそ、夜間部を廃止する選択をとることができたのであろう。
 このように、早稲田の通信教育の方向性は慶應とはかなり異なっており、それ故にそれを必要とする学生の層も異なっていると考えられる。筆者はこれ以上早稲田の通信教育に深入りすることはしないが、今後も機会があれば定期的にチェックしていきたい。
 短くまとめるつもりが結局長くなってしまった。実は筆者は早稲田好きなので(元々早稲田進学希望だった)、部外者の割に長々と語ってしまいがちなのである。
 それでは次回からやっと慶應の通信教育について記述する。これ以降はこれまでのような外部からの客観的情報よりは、筆者が体験した主観的情報が多くなってくると思う。その方が読む方にとっては新鮮な情報が得られるものと考えている。