Software Design 1990年12月号

一言で書くと、「Cマガジン?」。
とにかくCの話が多い。あと創刊号もそうだけど、総ページ数に対するプログラムリストの比率が高い。まあこれはこの時代のプログラマ向け雑誌はどれもそうだから違和感はないけど。
当時(といってもこの1,2年後)自分が読んでいたのは電波新聞社の「マイコンBASICマガジン」(ベーマガ)、ソフトバンク(現ソフトバンククリエイティブ)の「Oh!X」や「C MAGAZINE」だったけど、やはりこれらもプログラムリストがページの多くを占めていた記憶がある。ただこれらの雑誌の判型はA4変形。SDはB5ということで一回り小さいせいか、リストが横向きに印刷されているため読みづらい。

そのほかやはり特徴的なのはUNIXの記事が多いこと。この辺に現在につながる流れが見える。

Software Design 1990年11月号

半ばコレクションアイテムとして購入していたSoftware Designの総集編。1990年の創刊から2000年までと2001年から2012年までの2冊どちらも購入したままとなっていた。
先日dankogai氏の書評を読み、アナログを電子化しているから表紙の端が黄ばんでいると言われて「おー確かに」と確認していたら、せっかく創刊号からあるのだから全部読んでみようという気になってしまった。

というわけで、今回から毎号読んで簡単に感想を書いていこう。もちろん時間は有限なので興味のあるところ以外は流し読みで。

創刊号は1990年11月号。筆者がPCに興味を持ち始めたのは中学2年の頃でこれが1991年。つまりちょうど筆者のコンピュータ歴にほぼ沿った発刊となっているわけで、記事に出てくる固有名詞がいちいち懐かしい。
今のSD誌はインフラ周りの記事が充実していると感じるが、創刊号は時代を反映してプログラミングの話題でぎっしり。
巻頭特集はOOPで、その基本的な内容そのものは今でもおそらく通じる(自分はプログラマとしては落第なのであまり偉そうなことはいえないが)。ただ使用言語はほぼすべてC++。今だとJavaだよなあと思いつつWikipediaを確認すると、Javaの開発が始まったのがちょうどこの年なのね。誌面にはNEXTのObjective-Cの話も出てくるけど、この2つの環境に触発されて始まったそう。それにしても、NEXTの子孫のiOSがこれだけ反映し、Objective-Cがこれほど使われるようになったことを考えると感慨深い。
他にはANSI Cの解説記事も。ANSI Cの制定ってようやくこの時期なんだ。そういえば初めてC言語を勉強したこの時期の別の雑誌の記事で、「ANSI Cのプロトタイプ宣言が気にくわない。K&Rの方が良い」と書かれていたのを覚えている。このほか、連載記事も含めてほとんどがC言語がらみのプログラミングの話だ(中にはマシン語も)。

一方で今のSD誌につながるUNIX関連の記事も創刊号からかなり豊富にある。先のC言語の記事群がほぼすべてMS-DOS環境を前提にしていることを考えるとかなり思い切った構成に感じる。でもこの時期は結構XENIXに存在感があるんだね。意外だった。

というわけで創刊号はざっくり読了。2号目以降はここまで長く感想は書かないと思う。

SQLアンチパターン

 今回は新しい本でも。RDBMS、特にSQLがらみでありがちなトラブルを、ユーモアを交えて紹介しているのがこの本だ。日本語版には最後に「漢のコンピュータ道」奥野氏が執筆した章が追加されている。

 全編、「ああ、あるある」、「これやっちゃったなあ」と、SQLを使った開発・保守をした経験がある人なら心当たりのある事例のオンパレードで、にやりとしたり、背中にいやな汗をかいたりしながら読み進めることができる(そういえば、前職のシステムはこのアンチパターンにどっぷり浸かっちゃってるな。今も無事に動いてるだろうか……、など)。

 全体的に脚注での監訳者のフォローが充実しており、単なる翻訳ではなく、深い読み込みやサンプルプログラムの精査が行われたことがわかる。一部勢い余って本文のコラムにまで進出しているのはご愛敬か。

 個人的な思い込みかもしれないが、世間にはリレーショナルデータベースの理論(元は数学の集合理論)とオブジェクト指向をともに理解し、どちらも自在に操れる人は少ないと感じている。モデラーとプログラマとの間の相克はよく聞く話だ。本書で取り上げられているアンチパターンでも、プログラマがリレーショナルデータベース理論に疎いことが大元にあるものが多いと読んでいて感じた(まあ題名からして、プログラマに分の悪い内容であることは致し方ないが)。個人的には、昨今NoSQL(特にkey-value型データストア)が人気なのも、プログラマからわかりやすい・扱いやすいものだからではないかと考えている。データベースをただのデータストア(データ置き場)としてしか使わない例はよく聞くし。

 内容としては論理設計・物理設計・SQLクエリ・ソフトウェア開発と題材が大きく分かれ、非常に幅広くかつ実践的なものとなっている。正規化・浮動小数点の丸め誤差・テキスト全文検索・SQLインジェクションの問題と対策がすべて扱われていて、かつ300ページ程度に収まっている本はなかなかないのではないだろうか。そういえば先日取り上げた「プログラマが知るべき97のこと」でも浮動小数点の丸め誤差の話が出ていた。ありがちなトラブルなのだろうか。

 といったところで、DBAというよりRDBMSと連携するアプリを開発しているプログラマに是非読んでほしい本だ。でもタイトルからして筆者のようなRDBMS好きばっかり読むのだろうな。版元がオライリーというところが救いか(プログラマの目につきやすい)。

プログラマが知るべき97のこと

 今回の本は、前回の王選手の本と同時にブックオフで買ったもの。多くのー流プログラマがそれぞれ自分の思うテーマでショートエッセイを書き、それをまとめたものだ。タイトルからプログラマとしての心構えといった概念的な話が多いのかと思ったが、意外にもプラクティカルな内容も同じくらい取り扱われていた。

 内容は様々だが、通底するテーマは「職業プログラマとして(つまり開発チームの一員として)品質・保守性の高いプログラムを作るには」だろう。テストの話やコードのリファクタリングの話が多いことにそれが表われている。そのほか、若干ながらプログラマが成長するための心構えについて書かれたエッセイも目についた。あと「達人プログラマー」についての言及が多かったのも特徴か。やっぱりこちらも必読書なんだろうな。

 全般的にオライリーの本にしては気楽にすらすらと読める本であり、筆者のような職業プログラマとはとてもいえない程度のプログラミングしかしていない人間にとっても、これまでの経験と照らし合わせて「あるある」「そうだよなあ」という納得感のある話ばかりで、突飛な話はない。といってもそれはこの本の内容の薄さを表すわけではもちろんない。おそらく各々のプログラマとしての経験に応じて様々な気づきを与えてくれる本なのではと思っている。

 ぜひこれを職場の若手(と書くと自分はすっかりおっさんになった気がする。でも未成年の子なので本当に若手なんだよ)に読ませたいなと一瞬思ったが、仕事としてのプログラミングをまだしていない彼にとっては、まだまだ難しいだろうなあ。

王選手コーチ日誌 1962-1969 一本足打法誕生の極意

 2013年ももう2月になった。今更今年の抱負を書くのも変だが、今年はこのブログを有効活用しようと思う。bitchが書かなくなって久しいけれども、復活までのんびりと続けたいので。
 そこで、しばらくは読書感想文でも書こうと思う。慶應通信を卒業してからも本は継続して買って読んでおり、引っ越して巨大になった本棚もそろそろ埋まるくらい本が増えたのだが、1度読んで終わり(もしくはまだ全部読んでいない)本も多いため、再読のきっかけとするためにブログを使おうかと思っている。目標は週1回エントリすること。

 というわけで、第1回目は表題の通り、王選手を育てた荒川コーチの本だ。実は昨日ブックオフで買って一気に読んだものなので、全然「本棚の本の棚卸し」にはなっていないのだが、それはそれ。
 本書は王選手を指導していた荒川コーチが、当時つけていた日誌をほぼそのまま公開したものだ。高卒ルーキーとしてはまあまあだが周囲の期待には応え切れていなかった王選手が、荒川コーチの指導によって急速に才能を開花させてゆく様が臨場感を持って書かれている。あの一本足打法誕生の日もしっかりと記録されている。
 近年、「王は真面目、長嶋は天真爛漫」という当時マスコミがつけたイメージが実は逆だったということが徐々に明らかになっているが、この日誌にも、ちょっとよくなった王が練習をサボり気味になることで不調になってしまうという繰り返しが何度も登場する。
 ただ、それ以上に印象深いのは、まるで息子の成長を見る父親のような荒川の様子だろう。調子がよいと天才だと喜び、不調になると心構えがなっていないと憤る様は、どっしりと構えた師匠よりは父親に近い。日誌の最後、そろそろ王選手が独り立ちする頃の記載を読むと、少し寂しそうですらある。しかし、王選手を教え始めたときの荒川コーチはまだ32歳(1930年生まれ)。現役でもおかしくない年齢なのだから、揺れ動く心は致し方ないのだろう。それでも今の自分と同年代の人間がここまで人をコーチできるというのは、我が身を振り返ってみてもすごいとしかいいようがない。
 日誌には何度も「気」という言葉が繰り返し出てくる。この「気」についての解説がほとんどないため、意味をわからずに読んでしまうと、単に精神論をぶった痛い人にしか見えない。この意味を知るために、「打撃の神髄 榎本喜八伝」を併せて読むことをおすすめしたい。

 最後に、最近話題の「体罰」についても触れられていることが興味深い。王が門限破りの常習犯だった堀内に対して鉄拳制裁をしたことについて、荒川は日誌の中で厳しく批判している。あとがきにも体罰はもちろん、指導する際に醜い言葉(罵声)を使うことを強く戒めるよう、世の指導者に求めていることに注目したい。

オープンソースカンファレンス 2012.DBに行ってきた

最近このブログも放置気味。まあ自分はもともとあまり記事を書いていなかったのだが、bitchもすっかり書かなくなってしまったので、1年近く更新が止まった状態になってしまっている。

ちょっともったいないので、自分の(仕事がらみのネタも含む)メモ代わりにしていこうと思う。ただし他人が読んでも興味がありそうなものを書くつもり。

で、第一弾として、先週の話だけど「オープンソースカンファレンス2012.DB」に行ってきたので、その時のメモ。

カンファレンスのサイトは以下。プレゼン資料(一部)や当日のUstream中継が見られる。
http://www.ospn.jp/osc2012.db/

BigDataを迎え撃つ! PostgreSQL並列分散ミドルウェア「Stado」の紹介と検証報告
担当:アップタイム・テクノロジーズ合同会社
講師:永安 悟史

Stado(スタド)の概要
・MPPミドルウェア。PostgreSQLで使用。
・GridSQLの後継プロジェクト。歴史は長い。
・シェアードナッシング
・オープンソース
・DWH/BI向けソリューション
・スタースキーマを対象としてパラレルクエリを実行するためのもの。
・レプリケーションではない。
・高可用向けではない。
・Postgres-XC(マルチマスターのクラスタ)ではない。
・物理サーバ1台に対して複数の論理ノードを設定することができる。
・パーティショニングは以下2種類を同時に使用することが可能。
レンジパーティショニング → CE(PostgreSQL標準機能)
ハッシュパーティショニング → Stado
・集約処理(sum, count)は2段階で実行(ローカル→ノード間の集計)
・実行可能なSQLに制約あり。
・DMLは遅いのでデータ登録はツールを使ったバルクロードを推奨。
・ノードを追加するにはダウンタイムが必要。

導入手順
・PostgreSQL9.1以降、JDK6以降が必要。
・リリース版ではなくリポジトリから最新版を入手してインストールすることを推奨。

検証結果
・検証に使用した環境は以下2種類。
Amazon EC2 8nodes
物理サーバ HDDx4 論理4nodes
・使用したベンチマークはDBT-3 スケールファクタ:10
・countやgroup byではリニアにスケールした。
・ノードをまたぐjoin(クロスノードジョイン)ではパフォーマンスが上がらない。
・クロスノードジョインは一旦TEMPテーブルを作成しているため、DISK書き出しが発生。
・全体的に物理サーバ側ではきれいにリニアにスケールする部分が多かった。
・一方でEC2側ではリニアにスケールする部分もあればしない部分も多く、結果が不安定。
・ほか、結果にまだ不明な点が残るためまだ調査が必要。

以下、個人的な感想。
検証では複数ノードの環境としてEC2を使用していたため、結果の不安定さがStadoによるものなのか仮想環境によるものなのかが不明瞭だった。物理サーバを複数用意しての検証結果も見てみたい(自分でやれという話か?)。
pgpool-II 新バージョン 3.2 登場! ~多機能ミドルウェア pgpool-II の活用で PostgreSQL 利用の幅を広げる~
担当:SRA OSS Inc.日本支社
講師:安齋 希美(SRA OSS Inc.日本支社 技術開発部)

今回は以下2つの新機能の紹介。
1. On memory query cache
2. Watchdog

On memory query cache
・MySQLのクエリキャッシュをパクろう。
・pgpool-IIが以前持っていた旧クエリキャッシュは廃止した。
・クエリをmd5でキャッシュしたものを比較している。
・キャッシュされないselectは以下の通り。
:Immutableではないもの(DATE関数など)
:for update
:失敗したクエリやロールバックしたクエリ
:ブラックリストに載っているもの
:ホワイトリストに載っていないもの
:クエリによって返される結果セットのサイズが大きいもの
:一時テーブル(デフォルトではキャッシュ無効。有効にもできる。)
・キャッシュヒット率が低い場合は使わない方が速い(キャッシュのために余計な処理をしているため)。
・キャッシュヒット率の目安は60%~70%くらい。
・制限事項は以下の通り。
:暗黙的な更新が認識できない。ビューの更新やトリガーなど。
:スキーマを区別することができない。単純にSQL文をハッシュしているため、SQL内でスキーマ指定がなければ同じハッシュになってしまう。

Watchdog
・pgpoolをHA構成で使うための機能。
・仮想IPを使う。
・pingで監視
――――仮想IP

Active pgpool   ←→   stand by pgpool

PostgreSQL1     ←→   PostgreSQL2

・スプリットブレイン対策は、HUB故障時にどちらも仮想IPをdownさせることで行う。
・仮想IPのup/downを行うため、pgpoolをrootで実行する必要あり。
・failover時にパスワードなしssh接続ができる必要あり。
・現時点では取得できるステータス情報が不十分。
・時刻同期が必要。

以下、個人的な感想。
・pgpool-II自体をほぼ知らなかったので、新機能の話だけ聞いても意味がなかった。しまった。
・講師の人の喋りがたどたどしかった。自分も最近はセミナーやデモを行うことが多いので、聞いているときに自分が喋っている様を想像してドキドキしてしまった。

DBとはちょっと違うけど、分散処理基盤「Hadoop」の概要と最新動向紹介!
担当:Hadoopユーザー会
講師:山下 真一

タイトル通り、ざっくりとした概要紹介だったため全体的な話は省略。
気になった点だけ以下にピックアップ。

・GEではMySQLで50時間かかっていたツイートや記事の分析処理をHadoopで30分にした。
・CBSではWebサイトのログをHadoopに保存している。
・HBaseは数100TBくらいまでのデータ量の実績あり。
・Apache Flume:ログデータを格納するETLツール。
・JavaはOracle Java6 64bitのみサポート。(Java7は未サポートとのこと。)
・Apache BigTop:構築やテスト環境を作成するツール。

以下、個人的な感想。
当日使用するはずのプレゼン資料が壊れてしまったそうで、3月ごろの資料を用いてのプレゼンだった。本来のプレゼンを聞きたかった。サイトにアップされているものは本来のプレゼン資料のようだ。

PostgreSQL最新情報 ~9.2バージョンほか~
担当:日本PostgreSQLユーザ会
講師:高塚 遙(日本PostgreSQLユーザ会)

9.2の新機能・改良点についての紹介。
・CPUのスケールに対応。8.2~9.1までは8~12コアまでスケールしたが、9.2では32~64コアまでスケールする。
・今回のスケール対応は内部的なロック競合を改善することで可能となった。
・書き込みトランザクションの改善。COMMIT遅延が改善された。
・Index only scanが可能となった。PostgreSQLは追記型という特徴のため、これまでIndexのみでスキャンすることができなかった(テーブル側のみでバージョンを管理していたため)。今回はvacuum処理改善のために以前導入されたVisibility Mapを使用し、複数のバージョンを持たない場合(vacuum直後など)に実行できるようにした。
・レプリケーション機能を拡張し、スタンバイのカスケード構成に対応した。

プライマリ → スタンバイ → スタンバイ
|               |
―→ スタンバイ        ―→ バックアップ

・JSONデータ型の追加。配列・行からJSON型への返還関数あり(逆はなし)。現時点ではマルチバイトでバグあり。
・セキュリティバリアビュー。ビュー定義時に設定。
・SE-pgsqlの対応範囲が拡大された。
・parameterzed planの選択が可能になった。パラメータ付きSQLの実行計画を固定しないことができる。
※Oracleでいうバインド変数を使う際の実行計画の共有を止めるという話と一緒かな?
・drop index concurrentlyコマンド。インデックス削除時の表ロックを行わなくて済むようになったという話。

以下、個人的な感想。
インデックスのみを使った検索がまだできていなかったことに驚き。確かに内部構造を考えると難しいのだなと思うのだが、基本的な設計思想が高速化よりもきれいな実装を優先しているのだろうか。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:入学時の倍率

慶應通信の近況。

今年1月試験の段階で単位は充足し、5月の卒論指導で卒論提出許可をもらったので微修正後に卒論を製本し提出した。 これで、長かった慶應通信も後は9月の卒業試験(口頭試問)のみとなった。ただせっかく在籍しているので4月・7月の科目試験を1科目ずつ受け、夏期スクーリングも1期のみ参加予定という今までどおりの通信生活をしている。

というわけで、先日最後の科目試験を受けてきたわけだが、その際に久々に大学図書館で調べ物をした。元々は、2004年に慶應が実施した大学点検・評価に関する資料を見たかった(Web上にある情報では、通信に関する情報も多少あったので、さらに詳しい資料があればと思っていた)のだが、目に付いたのは「慶應義塾年鑑」という資料。この資料、慶應に関するさまざまな統計が載っていて、以前卒業率を算出しようとしたときにもお世話になったものだ。最新の2008年度版があったのでぱらぱらめくってみると、「入学試験」の項目に通信教育課程の欄が。以前見たときは、欄があったとしても合格者数と入学者数しか記載されておらず、あまり意味のないものだったのだが、この2008年版では志願者数からきちんと書いてある。あれっと思って直近数年間の年鑑を見直したところ、どうやら2006年あたりから徐々に載せるようになってきたようだ。これまで入学時の倍率は一切非公開とされてきたが、この資料に当たれば多少は状況がわかるかもしれないと思い、早速メモを取ってきた。

以下の表が「慶應義塾年鑑」記載の通信教育課程の入試状況である。年度によっては「合格者数」や「手続者数・完了者」といった項目にも数値が入っていたが、「合格者数」は「入学許可者数」と同一、「手続者数・完了者」は「入学者数」と同一だったため省略した。なお、「実質倍率」は「受験者数/入学許可者数」であり(年鑑での定義)、「志願者数」と「受験者数」の数値が異なるのは、「通信教育については、入学許可前後に志願を取り消した者を、便宜的に、入学許可前に志願を取り消した(志願者数-受験者数)とみなして掲載。」というためだそうだ(年鑑に注が記載)。また、2007年4月については入学者数の記載しかなかったため除外している。ついでに書くと、年度単位での各部の入学定員は、文学部:3000人、経済学部:4000人、法学部:2000人であるが、志願者数を見ていただければわかるとおり、あまり意味のある数値ではない。

文学部 志願者数 受験者数 入学許可者数 入学者数 実質倍率
2006年4月 450 444 391 391 1.1
2006年10月 248 248 220 220 1.1
2007年4月
2007年10月 311 309 269 261 1.1
2008年4月 608 603 512 494 1.2
2008年10月 326 325 296 280 1.1
2009年4月 567 561 529 512 1.1
           
経済学部 志願者数 受験者数 入学許可者数 入学者数 実質倍率
2006年4月 341 337 285 285 1.2
2006年10月 191 191 167 167 1.1
2007年4月
2007年10月 262 261 239 237 1.1
2008年4月 481 479 423 404 1.1
2008年10月 258 257 223 215 1.2
2009年4月 507 503 443 422 1.1
           
法学部 志願者数 受験者数 入学許可者数 入学者数 実質倍率
2006年4月 353 346 226 226 1.5
2006年10月 171 170 117 117 1.5
2007年4月
2007年10月 247 243 164 157 1.5
2008年4月 421 417 315 304 1.3
2008年10月 215 215 173 168 1.2
2009年4月 398 397 320 307 1.2

 

どうだろうか。やはり噂どおり入学者を絞っていたのかと驚かれる方、あれ?倍率ってこの程度なの?と肩透かしを食らった感でいる方、それぞれだろうか。個人的には、原則全員入学できるものとされている大学通信教育の中で、志願者の一割が入学できないというのは、書類選考しかしていないことも考えるとかなり厳しいと感じた。特に法学部は厳しいようで、2006年の1.5倍という倍率だと志願者の1/3は入学不許可だったということになる。1.1~1.5という数値だけを見るとたいしたことがないように感じるが、上述したようにどれくらいの人が落ちるのかを考えると結構厳しいことがわかるだろう。

一瞬、これは書類不備で不許可になった人も含むのかな、とも考えたのだが、書類不備の場合、普通に考えると志願不受理で志願者数にすら入らないだろう。そのため、この倍率は純粋に選考によるものだと筆者は考えている。ちょうど昨日届いた「ニューズレター慶應通信」特別号に掲載されていた、通信教育課程入学式での清家塾長の挨拶の中にも「入学の審査をきっちりと行い」という文言があったので、ちゃんと選考しているのだろう。恐ろしいことだ。

というわけで、入学を考えている人に多少は役に立つ記事だっただろうか。もちろん、過去記事でも触れたように、卒業は入学と比べ物にならないくらい難しいので、入学を考えている方はその辺も考慮に入れていただければ。では。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:評価(その3 試験)

前回に引き続き慶應通信の話でも。今回が評価についての最後の記事となる予定。最後のテーマは試験の難易度だが、例によって「大学通信教育つれづれ」のsanno氏が直近の記事で的確な指摘をされている。この記事を読めば筆者の記事など読む必要はないのだが、せっかくだから書く。

レポートと比較すると、試験の難易度はそれほど高くはない。少なくとも経済学部の専門科目では、大半の科目がテキストの範囲もしくは履修要項であらかじめ試験出題用と指定された参考文献の範囲から出題されており、履修内容とのギャップは少ない。よって試験対策も、過去問で出題傾向を把握した後は何度もテキストを読んで理解する(暗記する、ではない)ことで、基本的には合格点がとれるだろう。

もちろん例外もあって、経済史のように、それってテキストでは半ページしか記載がないだろ、どうやって論述するんだ、という出題があったり、時事問題と絡めた出題をするようなひねりをきかせたがる科目もあるが、全体としては少数派だ。

試験のレベルとしては基本的な事項を問われることが多いようだ。スクーリングの試験の場合だと講義で触れた多少高度な話題が出る場合があるが(多くはない)、講義という手がかりなくテキストをまんべんなく学習させるテキスト科目では、そこまでやるのは酷だと考えているのかもしれない。

スクーリングの話題に触れたところでスクーリングの難易度についても触れておこう。スクーリングの評価は大半が試験でもあるし。

スクーリングは上でも触れたように基本的に講義の内容からしか試験が出題されないため、難易度はそれほど高くないと思われる。特に夏期スクーリングは期間が短いことと基礎科目の講義が多いこともあって、内容的にもそれほど高度なものが出された記憶がない。密度は濃くてもやはり短期間なので、高度な内容を出しても消化不良になってしまうことを講師の方もご存じなのだろう。「発展的な内容は夜間スクーリングでやります」と公言していた講師もいらっしゃった。結果、筆者の周りでは語学以外で落ちたという話を聞いたことがない。筆者自身も評価はすべてAかBである。ただし語学(というか英語)は当たり外れが激しい。筆者はどちらも当たりの講義だったが、外れを引くと悲惨である。場合によっては最初からあきらめてしまう方がよいかもしれない(英語力をつけるなら外れ科目の方がよいのかもしれないが)。

というわけで、以上で評価についての考察を終える。一言言えるのは、筆者の主観では、理不尽に難しいのは例外的にあるかもしれないが、それ以外はごく普通の難易度だということだ。ただ難易度はその人のそれまでの経験によって感じ方が大きく異なるので、高卒から入学した場合は面食らってしまうかもしれないなあというのは感じる。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:評価(その2 レポート)

さて、昨年4月の科目試験が終わってから書こうと思っていたこの項目も、4月試験が終わり、7月試験が終わり、夏期スクーリングが終わり…とずるずるしているうちに、年度終わりのこの時期まで書かずに引っ張ってしまった。こういう話題で年度をまたいだとたん書かなくなると(しかも丸1年書かずに)、まるで挫折したようで見栄えも悪いので、久々に慶應通信の話題を書いてみる。

まずは、今回の考察に入る前に、1年あいたので筆者の慶應通信での近況を簡単に述べてみる。このブログで書く記事が滞っていた一方で、単位取得自体は順調に進んでいる。先日戻ってきた夜間スクーリングの単位を加えた現時点では取得単位数は115単位(学士入学の一括認定を含む)。あと1単位で卒論以外の単位数を充足するはずだ。ただ、念のために1月試験の結果返却後に成績証明書を発行してもらうつもりである。この点、年度末ごとに成績表を送ってくれてもよいのにと、少し不満に思う部分ではある。現在は卒論執筆中で、順調にいけば今年9月には卒業する(卒業予定申告済み)。このように偉そうな分析をしながら卒業しないのはかなり恥ずかしいので、何とか卒業が見えてきてほっとしているところだ。まあ卒論が行き詰まり中なので、まだ油断できないが。

では分析に入る。前回は主に履修時のシステムについて考察したが、これだけでは慶應の通信教育が特別難しいとはいえないことがわかったと思う。レポートを提出しさえすれば科目試験の受験資格を得、レポートが不合格で返ってきても試験に合格すればレポートの再提出で合格さえすれば再度試験を受けなくてすむ、というシステムは、他の大学通信教育と比較してもそれほど厳しくはない、むしろ緩いくらいだ、というのが前回の話だった。

それでは次に、具体的に課題と採点から難易度を確認しようと思う。とは言っても、筆者は他の大学通信教育を受講したことはないため、相対的な比較をすることは難しい。相対的な難易度の参考としては、以前紹介した「大学通信教育つれづれ」というサイトの「【雑感】レポートの不合格」という記事がおすすめである(無断リンク禁止とあるのでリンクは張らない。各自で検索されたし)。余談だが、「大学通信教育つれづれ」は、以前の記事で紹介してしばらくして、一時的に事実上の閉鎖をしていた。本サイトで紹介したのが原因だったのだろうかと心配していたのだが、再開した際の記事で、本サイトでの紹介を見て再開を決めていただいたという内容を読み、一安心するとともにうれしかったことを覚えている。

というわけで、この記事で比較対象となるのは以前卒業した某国立大の社会学部、そして現在妻が受講している北海道情報大の通信教育課程、という偏った対象となることをご容赦いただきたい。

まずレポート課題の形式について確認する。レポートの必要字数は基本的には4000字以内(例外あり)であり、課題は1~2問程度で「~について述べよ」式になっていることが多い。長文の論述形式だ。これは、筆者が以前卒業した大学では一般的な形式であり、おそらく文系学部全体でも一般的な形式だろう。逆に一応文系に分類されるが理系の色彩が濃い北海道情報大学では、短答式の設問が数十問出されるというチェックテストのような形式が多いようだ。

次に課題の内容であるが、これがなかなかのくせ者である。一般に大学通信教育での通信授業では、テキストの内容が講義代わりであることが前提だろう。ということは、講義内容の理解度を確認するという意味であれば、レポート課題はテキストの内容から出されると考えるのが順当だと思われる。もしくは履修要項に挙げられている指定の参考書でもよいだろう(これは一般的な講義におけるテキストと考えてもよいので)。実際、妻から見せてもらった北海道情報大学のレポート課題も、大半(すべて?)がテキストの内容を理解しているかを確認するものだった。

しかしながら、慶應の課題、特に経済学部の必修科目の場合は、テキスト・指定参考書だけの内容ではレポートで合格点をもらえることは少ない。少なくとも、レポート課題の内容を主題とした専門書を最低1冊は利用しないと、まともなレポートが書けないような課題が多いと感じている。というのも、経済学部必修科目は基礎科目であるため、テキストや指定参考書では基本的な項目が網羅的に述べられている一方で、一つ一つの項目についての掘り下げはさほど深くない。これに対して、レポート課題は特定の項目について深く掘り下げた考察を求めているものが多いのだ。

実際に、筆者は経済原論や経済政策学(今はテキストが書き換えになって新経済政策学となっているので今の事情はわからない)のレポート作成において、テキストと指定参考書のみを利用して作成をしたところ、それらテキスト・参考書には記載されていない深さを要求されてD判定(不合格)となった。特に経済原論では、普通の入門書レベルではまず出てこない項目にまで言及するようコメントが記載されていてびっくりしたのを覚えている(入門書と銘打った書籍でこのレベルまで記載されていたのは、私の知る限りゼミナール経済学入門(福岡正夫)のみ。噂では通学課程の学生のテキストらしい)。

というわけで、こと経済学部必修科目に関する限りは、テキストの履修内容とレポート課題とにレベルのミスマッチがあるのが、「高い難易度」の最大の原因であると考えられる。この証拠に、レベルとしては発展系と位置づけられる経済学部の選択科目では、レポート課題に密接に関連した参考文献が挙げられていることが多く、内容が高度な割にレポートは合格しやすい。

あとは、レポートの形式が整っていないと低い評価になりやすいというのが特徴だろうか。たとえば引用の仕方や参考文献が適切に挙げられているか、また序論-本論-結論といった文章の構成がきちんとなされていないものに関しては不合格となる場合が多いようだ。ただこれは、形式さえ整えておけばまずはクリアできるものなので、難易度が高いというほどのものではないだろう。逆に形式にうるさいと言うことは、それだけ形式に則っていないレポートが大量に提出されていて、採点者がいらいらしているだろうことが想像できる。

以上が、筆者の考える「レポートが厳しい」という噂の実態である。ただ、筆者が経験したのはあくまでも経済学部の学部科目のみである。慶友会の人の話では総合科目が一番の鬼門とも聞くので、レポート難易度はこうだという断言は、筆者は未だにできていない。

ブログエディタを使ってみる その2 IBMホームページビルダー14

ホームページビルダーは、一般の人たちがWebサイトを開くようになり始めた頃から存在する、老舗のWebデザインツールである。その後個人サイトが更新・管理の簡単なブログに移行し、Webデザインツールがプロ向けばかりになっていったため、初心者をターゲットとしていたホームページビルダーはどうなったのだろうかと思っていたのだが、しっかり版を重ね、今でも現役のパッケージソフトウェアとして健在だった。ただ、すでに個人向けビジネスから撤退したと思われるIBMは開発のみを担当し、現在はジャストシステムからの発売となっている。ジャストシステムも文書デザイン系のアプリケーションは得意なはずなので、もしかしたら開発から関わっているのかもしれないが、詳しいことは知らない。

さて、調べてみると、ホームページビルダーも最近の版ではブログ管理をサポートしているようだ。ターゲットから個人ユーザーが大半だと思われるので、ブログに対応するようになるのも必然か。ちょうどIBMのサイトから最新版の14(2009年12月発売)の体験版がダウンロード可能だったので、試しに使ってみることとした。なお、筆者は体験版をインストールしてPCの環境が汚くなるのが嫌いなので、VirtualBoxを使い、エミュレータ上のWindows XPで試用してみた。

今回のチェックポイントは大きく2つ。一つは当サイトの記事を適切に更新できるかどうか。もう一つはbitchが書きためているという記事を楽に移行させることができるかどうかだ。それでは、早速インストールしてブログの管理をさせてみる。

まず、管理するブログの種類を選ぶ画面が現れる。下の画像のように各種ブログサービスに対応しているが、自ら運営するブログ管理ツールでは、MovableTypeにしか対応していない。普通に考えるとここで未対応→終了なのだが、WordPressはxml-rpc APIがMovableType互換であるため、とりあえずMovableTypeを選択して次へ進む。
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ユーザー名とパスワードを入力。
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xml-rpcの設定。MovableTypeの場合の設定例がデフォルトで入っているので、
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WordPress用にURLを修正する。cgiではなくphpを指定。
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すると、自動的にデザインの読み込みを行い、設定完了。やった。
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保存して終了。
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次に、とりあえず既存記事の編集を行うこととした。ただ、なかなか既存記事を検索することができない。試行錯誤の末、とりあえず事前に「ブログの記事を一括取得」を選ぶことで、直近の記事を取得できることがわかった。
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さて編集だ、と思ったところ、先ほど読み込んだはずのデザインの適用がなぜかできず、MovableType風のデフォルトデザインでしか開けない。もうこの時点で面倒になって編集終了。
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全体としては、いまいち操作性がこなれていないなあという印象。あと、このサイトを編集する上ではやはりWordPressに完全対応していないのは致命的だった。そのほか、せっかくホームページビルダーを使っているのに、他の機能との関連性がないようだったのも残念。通常のHTMLで編集した内容をブログ記事に簡単に移すことができればbitchにもおすすめだったのだが、それはできないようだった(もしかしたら対応しているのかもしれないが、この短期間の試用では見つけることはできなかった)。ブログ編集機能だけが独立している印象。

もちろんいいところもあって、それは保存されている下書きがxml形式であるところ。これなら他のテキストエディタでも編集や閲覧ができるので、扱いやすい。保存先フォルダの場所はわかりづらいが。

前回も書いたが、結論としては採用見送りかなと。ただ、貴重な初心者向けHTMLエディタでもあるし、今後もがんばってほしいとは個人的に思っている。