Software Design 1991年10月号

特集は「最新GUIプログラム開発ツール事情」。内容はタイトルそのままなのだが、興味深かったのが記事の中でOS/2に触れた一節。すでにIBMとMicrosoftとの共同開発が破綻した後の時期で、OS/2 2.0はIBMが、OS/2 3.0はMicrosoftが出すという話になっている。そのMicrosoft版OS/2 3.0の開発責任者はDECでVMSを作った人だそうな。つまりこれが後のWindows NT、つまり現在のWindowsに連なる源流となるOSとなるわけですな。

さて、この号が12号目、次が創刊1周年となるわけだが、次回予告として衝撃的な報告が。「発刊1周年にあたる次号’91年11月号より、UNIXとワークステーション関係の記事を中心にご紹介することとなりました。」
ここまで当初よりも大分UNIX寄りの記事が増えてきたが、ここで一気に方向転換を行うらしい。この誌面変更が今日まで生き残ったSD誌の第一歩となったわけだ。いったいいつごろ今の誌面に近いものになったのだろうかと思いながら読み進めていたのだが、最初の転換点はどうやらここのようだ。

Software Design 1991年9月号

特集はC++のクラスライブラリ。これだけでかなりの紙面を割いているのに当時の時代の空気を感じる。
気になった記事は海外のUNIX事情を紹介する連載で取り上げられていたSunのSPARCについて。「SunはSPARCの勝ちに会社丸ごとを賭けた」というサブタイトルがつけられている。結果、その後いったんは勝ち、そして破れていったのだなあ。まあこの記事に取り上げられているMotorolaの88000に比べれば遙かにましだが。SPARCはまだまだスパコンにも用いられる高速プロセッサとして現役だしね。
このほか、Cのデバッグの記事を当時連載していたドワンゴの川上会長(もちろん当時は起業前)が、実際に教えるCデバッギング講座のお知らせが出ていた。どんな講座だったんだろう。

Software Design 1991年8月号

特集はWindows開発環境。MicrosoftのSDKとBorlandのC++パッケージをメインで紹介している。当時のとても面倒だったWindowsアプリ開発が偲ばれる。
しかしながら、今につながる開発環境としてはこれらよりも遙かに大きな影響を与えたツールがこの時期登場している。それがVisual BASIC。この紹介記事が掲載されている。記事の著者からは相当なインパクトを受けた様が感じられるが、それでもまさかその後長い間、業務システムの定番開発ツールになるとはこの当時思いもしなかっただろう。
余談だが、91年6月号の記事の図に他誌からの無断引用があったとのお詫びが掲載されている。これも時代の資料としては興味深い。

Software Design 1991年7月号

特集は「検証!GNUツール」。現在のSD誌の雰囲気を若干感じさせる特集だ。MS-DOSに移植されたものも紹介されている。そういえばX68000でもGCCをはじめとしてよく移植されていたなあ(筆者がX68000を中古で入手したのは1993年)。なお、当時のGNU移植版X WindowのバージョンはX11R3とか。ていうかGNUはX11の移植もしていたんだね。
そのほか、ワークステーションとしてSPARCstationを使う連載がスタートしている。また「これがMS-DOS5.0だ」という紹介記事も掲載されている。海外の翻訳記事でDOS5について結構好意的な記事だったのだが、日本ではNECが3.3の次に4を飛ばして5に行ったこともあって、5.0を効果的に使う環境があまり整っていなくて、当時は賛否両論だった覚えがある。

Software Design 1991年6月号

特集は「C言語好感度テクニック アルゴリズム編」。この号ではこの特集の他、C言語の新連載が始まっている。その名は「3分間デバッギング」。そのタイトルよりもさらに威勢良く、本文では「プロたるものプログラムが暴走したって、その原因を3ミリ秒でわかるのが当然」と豪語する著者は(株)ソフトウェアジャパンの川上量生氏。
あれ?この名前見たことあるなあと思いきや、ドワンゴの川上会長ですね。ちなみにWikiPediaによると、京都大学工学部を卒業してソフトウェアジャパンに入社したのが1991年となっているので、この記事を書いた当時はぴかぴかの新入社員ですな。まあIT(特にPC系)の世界は当時も今も高校生や大学生がばりばりのトッププログラマだったり雑誌のライターだったりすることが普通にあるので、すごいとは思いつつも、特にびっくりすることではないと思う。

UNIXネタはPCに載せるUNIXの話。当時はSCO UNIXが有力だったんだね。

Software Design 1991年5月号

本号の特集は「Cの高感度テクニック 関数編」。創刊号からここまで特集はすべてプログラミング関連ではなかろうか。そしてこの特集の中で、かの有名な(と思っているのは筆者だけかもしれないけど)藤原博文氏による「Cプログラミング診断室」が始まっている。これは次号からは通常連載となる。
そして個人的に興味深かったのが、MINIX 1.5をPC-9801へ移植したという記事。この記事の、MINIXの内部動作やそれをPC-98に移植する際に道ソースをいじったかなどの紹介などの雰囲気が、何となく今のSD誌の記事に近いなあと感じた。そう、プログラミング入門的なものよりも具体的なソフトウェアの内部構造紹介の方がSD誌っぽく感じるんだよな、個人的には。
あとはIBMが出してきたUNIXワークステーションの出来がすごくいいぞ、ワークステーション市場もIBMが席巻するのでは?という記事も。結局IBMが席巻することもなく、ワークステーション市場自体が消えてしまいましたね…。

Software Design 1991年4月号

まだまだプログラマのための雑誌の側面が色濃いこの頃のSD(まあ誌名からして当然なのかもしれないが)。本号の特集はWindows3.0の実用プログラミング。VBもMFCもないこの頃のWindowsプログラミングが以下に苦行であったかが偲ばれる。
ここまで読んできて思ったのが、当時のSD誌は結構書き手が偏っている(というか少ない)なというもの。吉田弘一郎氏と岩谷宏氏で誌面の半分くらいを書いているのかと思うほどだ。

Software Design 1991年3月号

特集はデバッガ。といってももちろんgdbではなく、MS-DOS上の開発ツールの話。MS-CとTurbo-Cのデバッガについてのもの。
この号で一番注目すべき記事はなんと言ってもMINIX開発者のタネンバウム教授へのインタビューだろう。これを読むと教授はMINIXをあくまでも学習のための教材のままでしておきたいという意思を持っていることがひしひしと伝わる。当時の「PCで使えるUNIX」を熱望しているユーザとの温度差が想像できて興味深い。

Software Design 1991年2月号

特集は「C言語ライブラリ活用百科」。とは言っても主にMS-DOS環境での話で、MS CとTurbo Cとの比較や商用ライブラリパッケージの紹介などとなっている。そのほか連載の大半は引き続きC関連(一応創刊号からPascalとかもあるが)。
で、C関連やOOP関連の話は今につながる話も多いので役に立つ記事と言えばそちらなのだが、わざわざ古い雑誌を読むのだから時事ネタの方がおもしろいよね、ということで今後は時事ネタの軽い記事を中心に読み飛ばそうと思う。この号だとUNIXのGUI周りの勢力争いの話が興味深いかな。SunのOpenLookとIBMやHPのMotifとの主導権争い。こんなことをずっと続けているうちにWindowsとLinuxに敗れ去ったわけですな。この頃はまだWindowsがサーバ市場に来るともLinuxなんておもちゃのOSがサーバに使われるようになるとも思っていなかっただろうなあ(そもそもLinuxの開発開始はこの年、1991年だそうで)。

なんか読んでいると無性に昔のPCを動かしたくなってきたので、VirtualBoxでWindows98とかMS-DOS6.2 + Windows3.1をインストールしようとしたのだが見事に失敗。VirtualBoxの仮想マシンはEMSをサポートしてないそうで、インストール後の最初の起動で失敗してしまう。じゃあなんでWindows3.1の選択肢があるんだよ!なんて突っ込みたくなるが、一応回避策はあるようなので、時間があったらまたチャレンジしよう。ちょうどこの時期のSDの連載にCでEMSを使う記事があったけど、これは試せないんだね。それにしてもEMSなんて今どれくらいの人が覚えているんだろうか。

Software Design 1991年1月号

特集がC、連載も大半がC(およびC++)と、これまでから引き続き「Cマガジン」状態。筆者が最初に読み始めた1990年代後半はすでに今のテイストに近いものだった覚えがあるのだが、そうなるのはいつ頃なのか。気になる。

時事的なネタだとCOMDEX fall’90の記事がある。ラスベガス、懐かしいなあ、去年行ったなあ、ということは置いといて、リリース直後?直前?あたりのWindows3.0で盛り上がっている一方で、OS/2(この頃はまだIBMとMicrosoftの共同開発の頃)はぱっとしないとの話。別記事でもMicrosoftがIBMとの共同開発の要員を減らしてWindowsに振り向けた。IBMとMicrosoftの蜜月は終わりとの話がある。これが数年後のWindows95での最終決戦(と、OS/2の終焉)につながっていくのだなあと考えると感慨深い。