大日本人 ★★★☆☆

電流ショックで巨大化し、獣を倒すヒーロー、大佐藤(六代目)の話。
企画構想5年、総製作費10億円、監督・脚本・主演、松本人志。運良く思春期に「ごっつええ感じ」に出会い、ダウンタウンとその周辺の信者になってから約10年、ついにこれが、このときが来たと、映画見る前は実際かなり緊張していた。見る方が緊張なんて馬鹿げた話だが、本当にそうだったんだよなあ。
ゴールデン単発スペシャル番組「ものごっつええ感じ」が意外なまでに低視聴率で、一般にダウンタウンの笑いが受け入れられないと分かってから、松本の「映画を作る」「結局、映画でしかやれない」のような発言は頻発するようになっていた。それはつまり、松本(ダウンタウン)の笑いがマスに指向しておらず、皆が皆一斉に笑うというよりも、表現的に際どかったり、一見分かりにくいが発想を巡らすとジワジワ笑けてきたり、「松本VS多」ではなく「松本VS個」というミニマルな笑いの追求に注がれるという事なのかと、はじめは思っていた。が蓋を開けての「10億円」。日本映画にしては大規模な予算となると、商業ベースにのせるために、ある程度マスに寄っていかないといけなくなる。この辺の塩梅がどうなのか、信者としてどう受け止めるのだろうかと、そういう緊張のような気がしていた。
映画は中盤まで、コメディーというよりドキュメンタリー映画のような作り方をされている。大佐藤の事について、周辺に印象を聞いてみたり、本人の本音(大日本人としての本音)について核心を突いて探りを入れたりと、序盤~中盤はドキュメンタリーの手法そのもの。しかもあからさまに低予算なやつだ。セリフも冗長だったり、噛んでいたりと、妙に生々しい。これは絶対意識してる。だから、この映画は現実の日本ではなく、もうひとつのパラレルな日本、「大日本人」という種が存在するもうひとつの現実(便宜上向こう側としよう)の生態を、こっち側の日本でドキュメンタリー(低予算、てのが大佐藤の現状を示唆している)として見るという、そういう認識は必要なんだな。向こう側では「大日本人」の存在は全くおかしな事ではないし、それにつながる数々の事柄というのは別に面白いことでもなんでもないんだ。「そんな風に発想するお前が一番面白くない」という事についてはこの際置いとこう。俺はこう感じたんだから。だからこういうの映画館で見るの嫌なんだよなあ~。隣の隣の野郎、馬鹿みてえに素っ頓狂な高い声で序盤から馬鹿笑いしやがってテメエ、お前がおもんないんじゃ。
ついでに書くと、公開直前まではDVDまで待とうと決めていた。前述の通り、「松本VS個」の環境を作りたかったし。しかしほんとの直前一週間ぐらいでやたら映画監督・松本の露出が高まり、松本自身は「見てもらうしかない」という姿勢を貫いて事前情報をなるべく少なくしていたが、それでも周辺から発信されてしまう。元来俺は映画の事前情報をできるだけ排除して、ニュートラルなポジションで映画を見る方だし、ましてや松本作品となると、その思いは尚強くなる。このままDVDまで待ったとして、ネタバレを防ぐのは困難だろうと判断し、それなら早いほうが良かろうということで早速見に行ったわけだ。
で、向こう側ではなんか知らんが、たま~に獣(じゅう)という、なんつーかな、大日本人と戦うぐらいのサイズの、異形の生き物が出てきて、大佐藤はそれを倒すのが仕事らしい。こういう設定どっかで昔見たね。そう、エヴァンゲリオンなんだなあ。ヒーロー物によくある設定、例えば「地球を征服しようと画策した○○星人が、たまたま日本を標的にして色々攻撃をすると。でそれを阻止するべくなんたら防衛隊が存在し、最終的に■■マンが○○星人を倒すと。」、大日本人の世界もエヴァの世界も、これに当てはまらないというのが共通している。利害関係ゆえの対立構造ではないんだな。たまたまなぜか巨大な異形の生物(?)が存在し、それが地球にとって害を与えているため、それを取り除く存在がたまたま居ると。エヴァではざっくり言うと自分の内面と戦うために使徒と戦っていたし、大佐藤は、当面の算段として「月給80万」のために獣と戦っていると思われる。あと、四代目への忠誠心もか。
「獣と対決していく」というフォーマットが定まってからは、ドキュメンタリーもより強く、大佐藤という人間の心の葛藤に迫るようになり、ついに「中村雅俊」でこっち側で見ている奴らも大佐藤の世界に感情移入させようとしてきた。居酒屋での帰り際、「馬鹿いってんじゃないよ~、大日本人だよ。」の部分はストーリー上のクライマックスだろう。ある意味、ストーリーとしてはここで終わりなのかもしれない。そう、この映画は、見栄っ張りで、馬鹿で、酔っぱらうと調子に乗っちゃうけど、妙に律儀な、たまたま巨大化してしまう一人のおっさんの、大日本人としての美意識を主題とした話なんだよなあ。
そして突然の寸断!「ここからは実写うんぬん・・・・」の後の展開、そしてそのまま唐突なエンディングを迎え、それまで笑っていた隣の隣の素っ頓狂もあっけにとられたように口をつぐんでしまった。横にいた女3人、前のカップルも、突然の展開にわけがわからない感じになっていた。俺も最初「なんじゃこりゃ」だった。で、こっからは俺の捉え方なんだが、あれはつまり「アメリカにいる大アメリカ人」なんだろうな。あの最後の獣に関しては、外国から来たと言っていたし。大アメリカ人の登場後の展開はさすが、長年コントを作り続けてきた集団だもんで、一般的なヒーロー像を逆手に取ったコントそのまんま。実写にしたのも、純粋なコントとしての間の取り方とか空気感を出すためだろうか。あれCGのままだと想像すると厳しいもんな~。まあ、松本が作る映画だから、オチはコントでも問題なかろう。
CGのクオリティとか、どこが面白いとか、あれはああだから面白いとか、そんなんは人それぞれだからどうでもいい。もちろん出オチや、前フリがあってそれに忠実にボケるという笑いも結構多いが(ほんと、結構多いのでびっくりしたのだが)、この世界観全体はなんとなく「システムキッチン」を彷彿とさせ、それこそ見るたびに笑ってしまうポイントも変わることだろう。世界観はそれぐらい懐深いとは思った。
ただフラットに見て、ダウンタウン信者ではない一般の人にこれを勧められるかというと、俺はそう思わない。イタい選民思想とかではなく、基本的にダウンタウンの笑いについてウェルカムでないと、序盤~中盤の長い長~い「大日本人」世界観の植え付け作業が非常にしんどいだろうし、一旦そこで心の扉を閉ざしてしまうとベタな笑いもベタが故に笑えなくなるし、結局何がどう面白いのか、面白くしようとしてるのかわけわからずこんがらがるだろう。もしかすると一般の人は、「おもしろまっちゃんの作る、爆笑コメディ」を前提に見に行ってるかもしれんしな。さらにシビアなテーマとしては、プレ大日本人という意味での「Zassa」(PPV300円のインターネット有料コント)に続く、無料の地上波とは違う「1,800円払うのにふさわしいか。今ならん~~~~、、パイレーツオブカリビアン3と比べてどうなのか?」とか、そういうレベルでの話だ。
最後、総合評価について。ストーリー映画としてはおもしろかった。笑いについて個人的に初見では、大笑い(声が出てしまう)は一回も無し。基本含み笑い。まー松本のコントは含み笑いだよなあ。最後のコントは常時フフフ・・・・ぐらいかな。なんか気持ち悪いな。これはもちろん先入観、もっとすげえの、何か刺激的なのを提供してくれるだろうという思いこみが強すぎたから。信者なもんで。それとマスに寄った分、海原はるか師匠で瞬発的な笑いを取りに行ったり、後々まで作品として残るであろう映画に原西のギャグ(今流行のギャグ)を入れてみたり、こっち側と向こう側を繋げてしまう要素が散見されて純度が低下したのもマイナスポイント。これは松本どうこうではなく、マスとのバランスを考えた役割の人が介入したのだろう。それもまた大作のゆえんだ。
これが監督一作目、になって欲しい。カンヌで世界の35人(32人かも)に選ばれたビートたけしも、図らずも監督デビューとなった「その男、凶暴につき」で荒削りな自分の色を見せたし、その後「みんなやってるか」「8×3=9月(絶対違うけどこんな感じのタイトル名)」とか、自分で自分を殺しかねない犠牲を出しながら、「ソナチネ」のスタンスに到り、「HANA-BI」で評価されたわけだから。とにかくコントの拡大バージョンでもないし、凡庸なストーリー作品でもないし、スタートとしては最高だろう。★5は後々に取っておこう。

WC2006 FINAL

イタリア 1 (PK 5 – 3) 1 フランス
ジダン頭突き引退について、きっかけとなったマテラッツィの「テロリスト」発言について真実かどうか、現在の所双方の意見が食い違っているので行為の是非はあるが、引退試合+ワールドカップ決勝という事から察すると、相当な事を言われたのは間違いないだろう。ジダンがアルジェリア(イスラム過激派のテロが多い)系フランス人だということからすると、この発言はあってもおかしくない。ヘディングの空中戦で小競り合いがいくつかあって、それが溜まって何度目かの空中戦の時につい当たりが強くなったり手を出したりすることはたまにあるが(デロッシがこのパターン)、あんな露骨に頭突きをかますシーンは思い出しても記憶にない。それまで優勢にゲームを進めていたフランスもこれ以降人数的な問題でPK戦での決着を目指す雰囲気になったし、メンタルが一番左右するとされるPKではなーんかフランスの負けムードが漂っていた。
一応試合感想も書いておこう。開始すぐにアンリが「脳揺れ」状態になり、おいいきなり交代かよと不安になったが、再開後なんとマルダがダイブ気味のPK奪取。思い返すと、仮に頭突きが無くフランスが優勝していれば、このPKはあのレバークーゼン戦のダイレクトボレーシュートと並んで「ジダンの伝説シュート」として残ったことだろう。どの解説者も言っていたし、俺もそう思ったが、WC決勝の先制点という場面でチップキックはお見事すぎる。ただなあ、結果的には恐らく伝説シュート→頭突きが1セットで語られるんだろうなあ。
この1点で、フランスがいつものドン引きカウンターになりつつあったんだが、イタリアがセットプレイで同点に追いつく。PKを与えたのもマテラッツィであれば、豪快なヘディングシュートを決めたのもマテラッツィ。この時点では自作自演かよと軽く思ってたんだが、最終的に頭突きのきっかけもマテラッツィというのも何か因縁めいている。
これでお互い五分の試合に戻る。この時点でのイタリアディフェンスはまだ元気で、28分頃のフォアチェックからロングボールを蹴らざるを得ない状況に持ち込んだシーンは今大会の守備の良さを象徴しているようで、また3回のCKがいずれも決定機でうち1回は得点という、前半はどちらかと言えばイタリア優勢で終了した。
ただ後半時間の経過とともにイタリアのフォアチェックが少なくなって、ディフェンスと言うより「カンナバーロ+ブッフォン」て感じになって、フランスの決定機がかなり増えた。これはイタリアの運動量が減っていったにもかかわらず、フランスの両サイド、リベリとマルダは積極的に突破やフリーランニングを仕掛けていて、それにアンリが絡むシーンが多かったからだ。ここにきてようやくアンリらしい緩急のドリブル突破を積極的に試みるようになって、鉄壁の二人がいなければイタリアは得点されていたかもしれない。ついでに書くとこの日もトッティは消えていて、交代したイアクインタ・デロッシ・デルピエロも流れを変える要因にならなかった。で後半終了、延長戦へ。
延長になってもフランスが変わらず攻め続ける。ジダンのヘディングシュートは紙一重でブッフォンセーブ。こうしたフランス優勢の中で頭突き事件が起きて、これ以降試合が壊れてしまった。
結局俺は表彰シーンやトロフィーを掲げるシーンを見なかった。元々イタリアサッカーは嫌いだが、劣勢の時になりふり構わず相手を貶め流れを引き寄せるというのはそれだけ勝利への執念が強く、後々の記録や記憶には勝利しか残らないという事を知っているメンタリティだし、その点は凄いと思う。建前では「どんな理不尽でも暴力はダメ」だの「全世界の子供に悪影響」だの言われるだろうが、個人的にはサッカーとは無関係に、一人の人間として致し方ないほど侮辱されたらぶん殴るのも仕方ないと思うし、勝利よりも人としてやっちゃいかんことはあるんでねえのと思う質なので、やはりこの優勝は非常に後味が悪く、見るに値しなかった。

ドイツ 3 – 1 ポルトガル

開催国ドイツが有終の美を飾るべく、銅メダル獲得を目指した3位決定戦。
こういう試合はお互いに結構空気読みやすい。ヘタに決勝戦だと空気も何も、どっちのチームも「優勝したいオーラ」で満たされるので全く違った展開になったことだろう。で、相手がEURO2004の決勝で開催国ながらギリシャに負けてしまったポルトガルというのもなんだかなあ。
試合前からニヤニヤニヤニヤ、フェリポンとクリンスマンはまるでなんらかのアピールのごとく事あるごとにハグをかまし、客観的に見たら、カッパハゲのさわやかおじさんとシチリアンマフィアのボスのような風貌の濃いおじさんが2-3度抱き合うなんてとんでもなく異様だが、場所がふさわしければいい絵になる。
これがいわゆる「3決の雰囲気」なんだろう。ここまでの過程の中で両者とも、例えばアルゼンチン・イタリア・オランダ・イングランド・フランスのような強国とガチ試合をしてきた時とは明らかに違うムード。薄ら笑いがよく似合う全体の感じ。なんだこのギャップと思うが、これこそ3決なんだなあ。
レーマンがカーンに花を持たせ、フィーゴもついでに有終の美と。次代の象徴シュバインシュタイガーが全得点に絡むと。表彰式もにやけ面がとても似合う雰囲気で、まあ決勝の前哨戦としてみれば余興としてはよかったと思う。つーか、決勝が楽しみで正直あんまちゃんと見てはいない。

ポルトガル 0 – 1 フランス

ジダン・フィーゴ

フェリポンのやりくり采配で自己最高ベスト4まで勝ち上がってきたポルトガルと、未だ攻撃の形ままならずも、鉄壁ディフェンスと個人技で勝ち上がってきたフランスの準決勝-2。
終わってみればつまんない試合だった。ワールドカップのセミファイナルがこんなお通夜みたいなんでいいんだろうか。勝った方が優勝を争うファイナルに進出できるという理屈はわかるが、このゲーム単体で切り出して、例えばジダン的に、アンリ的に、フィーゴ的に、デコ的に、ロナウド的に、ジベ的に、ヌーノゴメス的に、ドメネク的に、カランブー的に(チラ見した)、プラティニ的に、ベッケンバウアー的に、ベッケンバウアーの嫁的に、ブラッター的に、FIFA的に、「この試合はエンタテイメントである必要はなかったんだろうか???」。この点が試合内容から鑑みて非常に気になった。
だって仮にもワールドカップのセミファイナル、ある程度プラチナチケットだろうし、定価ですらたぶん平均100ユーロぐらいか?詳しく調べとらんのでわからんがたぶんそんぐらいだろう、まー中には馬鹿みたいにだまされて10倍以上の価格でぼったくられた人が結構いるであろう事は、日本でもマックス何たらのチケット問題とその後のハイエナ商売からわかるように、ある程度推察できる。
で、この試合が見せ物として100ユーロ、あるいは1000ユーロ、はたまたそれ以上の価値があんのかと。結果的に勝ったフランスファンは消化したかもしれんが、負けたポルトガルファンは負けたショックとつまんない試合見たショックがでかすぎる。内容はもういいだろう。30分頃のアンリPK奪取→ジダン得点。これで勝負は終わってしまった。あとはトーナメント先行逃げ切りの定石としてのドン引きカウンターをポルトガルが崩せず終了。
フランスは攻撃の形はこの期に及んで確立されておらず、この試合でも意志の疎通が明らかに無いシーンが結構あった。しかも、攻撃の核であるジダン・アンリラインが不協和音な感じ。まだお互いに譲り合い、リズムが生まれていないように見える。案外、無理からコンビネーションを高めるよりも、曲がりなりにもそのポジションで世界5指がいるんだから、各自の発想にまかせてるのかもしれない。その反面守備が鉄壁すぎ。一発勝負での強さがここにある。まるでイタリアみたいなやり方なんだが、元々フランスの特徴ってアーセナルみたいに足下の技術とタフネスを基盤として、パスをぽんぽん繋ぐ+スペースへのフリーランニングを主体とした、攻撃的なサッカーじゃなかったっけか?
もっと言えば、この状況を打開できる力強さをポルトガルには見せて欲しかった。ベスト4まで上がってきたんだからそういう底力は持っているべきだし、全体からもっとフランスに圧力をかけて欲しかったし、チャンスらしいチャンスがパウレタのゴール前の強さとC・ロナウドの無回転FKだけだったというのがせづねえ。ならよー、空気読んでイングランド勝たせてくれや。
これで決勝は「攻撃的?」イタリア VS 「イタリアぽい?」フランスか・・・。なーんかもうすでに0-0延長PKが眼前に広がっているような・・・・・。当初非常に面白い試合の多かったドイツ・ワールドカップも佳境に入るにつれて段々手堅い試合増えてるなあ。当然ちゃあ当然か。

ドイツ 0 – 2 イタリア

アルゼンチンを破り優勝も狙えるチームになってきたドイツと、ユベントス・ペソット問題や主力の怪我など多くのトラブルを抱えつつも勝ち上がってきたイタリアの準決勝-1。
見る前は、ドイツホーム(しかもベストファーレン)ということで、またもやイタリアはオーストラリア戦のような省エネ疲労待ち「カテナチオ」になり果ててしまうのだろうかとすごく不安だったのだが、いい意味でその危惧を裏切ってくれた事にまず感謝。いや、イタリアだからこそ圧倒的ホームチームの優勢試合であっても、ドン引きカウンター狙いで凌いでいけると思っていたので、このリッピの方針選択が意外でもあり結果的には非常に緊迫感のある名勝負になったと思う。
前に対オーストラリア戦のような戦い方をやっちゃうからイタリアサッカーが嫌いだと書いたが、それは今でもかわらない。攻撃的な戦い方もできる面子が揃っているのに敢えて守備的に戦ったりして、それが勝利至上主義的観点からして「OK」だからだ。しかも相手がオーストラリアという、個々のレベルからすると明らかに劣っているチームに対してそういう事をやっちゃうもんだからムカついてくる。
ドン引きカウンターは、守備の壁が厚いため得点される機会も減少する反面、カウンターに割ける人数も限られるため得点機会も減少する。結果見る側としては非常につまらない展開になってしまう。その点この試合ではサイドバックのグロッソ・ザンブロッタもガツガツ攻撃参加してたし、サイドのペロッタ・カモラネージも2列目から飛び出したりピルロ・トッティのパスを受けたりして、かなり攻撃的にやってくれていた。こうなると当然守備の枚数が自然減したり、サイドバックの裏スペースがぽっかり空いたりするもんなんだけど、守備VS攻撃の駆け引きの醍醐味ってそういう限られた中でこそ面白味が出てくるものだ。実際カンナバーロの守備者としての優秀さが際立っていたのは、クローゼ・ポドルスキーとの1VS1でまず負けなかったからだろう。例えば30分頃のシュナイダーのシュート、50分頃のクローゼ・グロッソのシュートシーンなど、得点が入ってもおかしくないシーンは結構あったし、結果的に0-0で長いこと進行したが、互いに攻撃意識が高く、それを安定した守備組織が阻止するという、非常に面白いゲームだった。
ただ前半から高いテンションでお互いに攻め合い、同時にきつい守備を展開していたので、65分頃から動きが鈍り全体が間延びして大味な雰囲気になったのは仕方のない部分だろう。90分間テンション高いままというのは滅多に見ないし、リーグ戦やカップ戦でも70分ぐらいを境に、それまでテンション高ければ最後まで流した感じになるか、ラスト5分にあと一盛り上がりある感じになり、それまで平坦であれば70分から急に試合が動き出す(こっちの方が見た後の印象は良くなる傾向)。
結局イタリアがオーストラリア戦と同じようにラスト2分ぐらいで試合を決めてしまったんだが、それとは全く性質が異なる得点だ。オーストラリア戦では相手の攻め酔い・自身の守り慣れという展開から間隙を縫って出し抜くような、ある意味「セコい」得点だった(PKに値するファウルだったかという議論もあるが、レフェリーが吹いた以上それは全く問題ではない)が、今回は相手の圧倒的ホームゲームにもかかわらず、最後までポゼッション優勢を維持し、リッピもイアクインタ・ジラルディーノ・デルピエロといった攻撃の駒を投入し続けたことによる運の引き寄せ、勝ちに値する試合展開だったし、ゲーム自体も非常にいい内容だった。
ドイツに関しては、前のアルゼンチン戦後の乱闘騒ぎで不幸にもフリングスのぶん殴りが発覚し、出場停止になったのは結構影響したように感じる。フリングスなら前につないだのに、とかフリングスならミドルシュート(結構精度良いやつ)撃ってるのに、といったシーンでケールは横パスで回したり、自分でキープしてしまったりと、明らかに「ディフェンシブハーフの質の違い」がチーム全体に影響していたように感じる。バラックもいつものように攻撃を主とするのではなく、攻守ともに顔を出すバランサーのような役割を演じていて、結果FWのクローゼ・ポドルスキーもペナルティエリアよりちょい前ぐらいでパスを受けるシーンが多かった。
決勝でもこういう風な「攻撃的なイタリア」をやってくれたらうれしいが・・・・。どうかな・・・。

ブラジル 0 – 1 フランス

Zizou

選手配置が勝敗を分けたかな。
フランスは、ジダンがサスペンションとなった試合以外で貫いてきた基本フォーメーションの4-2-3-1。アンリをトップに張らせ、ジダントップ下、マケレレとヴィエラがセンターで守備的な中盤を形成する。これまでの試合では、アンリがサイドに流れてクロスを送ってもゴール前に誰もいなかったり、決して完成されたフォーメーションではないが、フランスはジダンと共に心中する=ジダン最後のチームを意識した布陣となった。
対するブラジルは、なんとここまで貫いてきた「カルテット・マジコ」を捨て去り、馬力のないアドリアーノに代わって交代出場で結果を残していたジュニーニョを中盤に置き、ロナウジーニョをFW気味に用いる4-4-2。マジコ・スタイルは崩したが、パヘイラらしくやはりブタは意地でも使ってきた。
で結局これが裏目ったんだな。段々調子が上がってくると目されていたブタは相変わらず走らず、ロナウジーニョは通常より高い位置を任されたため、彼がボールを受けて突破を計る前の段階、フランス中盤の2人やサイドの囲い込みによってボールを奪取され、プレイする機会が激減してしまった。かといってフォーメーションを崩すように後ろに下がって受けることもなく、アドリアーノが投入され定位置に戻るまでは良いところがなかった。
一方この日のジダンは神懸かったようなスーパープレイを連発、マイボールを奪取されるシーンがほとんどなく、おまけにルーレットまでやっちゃったりして、ロナウジーニョとは対照的に見事なゲームメーカーの役割を果たしていた。
フランスはジダンの好調だけではなかった。アンリは相変わらずのらりくらりとしながらオフサイドラインのギリギリを狙っていたが、リベリの2列目からの突破がよいアクセントとなりフランスに勝ちムードを呼び込んでいたように感じる。
現地実況では、テレビ画面では見えないフランスのディフェンスラインの押し上げについて再三指摘していた。つまり、ブタがオフサイドラインの突破を試みようとしてもテュラムを中心にラインコントロールが素晴らしく、そうこうしているうちにパサーであるカカやロナウジーニョに中盤のヴィエラ・マケレレの寄せがやって来てファウルなしにボール奪取に成功するシーンが結構あった。大会前はフランスの中盤が疲弊してくると予想してたんだが、いやいや、一時言われてた「世界最高のセンターハーフ」にふさわしい活躍ぶり、ブラジルに攻撃の機会を与えず、攻勢をキープできた一番のポイントだろう。
ベスト4に名を連ねたことで、次は最悪負けても3決の試合があるため、ジダンのラストゲームは残り「2」となった。ここまで行くとは全く思わんかったなあ。
※試合を見終わり、アパッチ攻撃ヘリの特集番組を見ながら試合の感想を書き、書き終わってニュースを見ると中田英がサッカー選手を引退していた。なにこのギャップ。お前まだごって若手やーん。ちょいまだ詳しくわからんのでしばし静観しとこう。

ドイツ 1 (PK 4 – 2) 1 アルゼンチン

カーンの闘魂注入

70分頃のリケルメOUTについて、試合後のインタビューではその理由を聞いてくれなかったのでまだ真意はわからんのだが、カンビアッソ投入=守備固めだとすると(俺はそう思った)、アルゼンチンらしくない交代だ。ここまでの戦いではリケルメを中心としたポゼッションを重視して、守備も読み予測を重視した高い位置からの囲い込みを主としていて、守備固めのように「相手の攻撃を受けて防ぐ」ようにはしていなかった。それにもまして、万一同点に追いつかれた場合(実際そうなったんだが)、リケルメ不在による攻撃パターンの激減をペケルマンは想定しなかったのだろうか。そんなハゲちらかしのように無為無策の監督ではないし、そういうリスクを込みでのギャンブルだったとしたら、それほどあのスタジアム内の雰囲気というか、ドイツゲルマン魂の執念を感じていたのかもしれない。
もう一つ重大なポイントとしてはアボンダンシエリの負傷交代だった。レオ・フランコがアボンダンシエリと比較してどうこうではなく、メンタルの準備もない第二GKがいきなり入って活躍できるほど、ワールドカップのトーナメントがやさしい試合で無いことは素人でもわかる。PKまでもつれたら負けは確定だろうとぼんやり考えていた。
しかも最後のカードがフリオ・クルスて・・・・・。おい、インテルのあのボケを、この局面で投入したって勝ちムードねーーーーーーーーーーーーーーーーーーんだよ。メッシだろがーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。結果的にはそれなりに活躍してたんだが、自ら突破を仕掛けることもなく、「勝ちオーラ」「得点オーラ」は微塵も感じなかった。
で、PK。カーンに闘魂注入されたレーマンの自信満々ぷりに対して、レオ・フランコの存在感のなさというか、こういう局面のオーラのなさっぷりはかわいそうすぎた。次々際どいところに決めてくるドイツキッカーに対峙して、右側に自信なさげに倒れ込むだけ。彼を責めることはできない。PKになった時点でこういう展開はそれこそアルゼンチン自身もわかっただろうし、例えばラームの横パスミスカットでマキシシュートなど、90分+延長戦の流れの中で試合を決める以外勝ち目はなかった。
この日ドイツは、アルゼンチンにはガチでテクニック勝負やっても到底勝てないと理解した上で、守備はガッチガチのリトリート、守備ライン+マスチェラーノぐらいまでのポゼッションは許容する代わりに、決定的な部分でのFWやリケルメの動きを封じることに集中した。最終的にポゼッションはARG 60 – 40 GERぐらいだったと思うが、ある意味この結果はドイツの思惑通りだったように感じる。
アルゼンチンはこの流れに身を任せ、自分らの戦術通り最終ラインからのロングフィードはほどんどなしに受けて立った。この点に関しては、エインセが長いこと怪我で不在で、彼の特徴である正確なフィードの有効性をテストマッチで試せなかったのもちょこっと影響しているかもしれない。ともかく、ゲーム自体が非常に緊迫した、言い換えれば動きのない展開に終始したのはドイツの作戦に依るところが大きいし、先制されてからのクリンスマンの采配は見事にハマリ、対するペケルマンはぶっ壊れた。
あとオドンコール投入後、シュナイダーと比べて頭空っぽで突進してくるものだから、それにソリンが手こずったのもじわじわジャブのように影響したのではないかと思う。ああいう空気読まずに突っ込んでくるタイプは攻勢の時活躍するよなあ。
あー負けちまった。前回トルコがブラジルに負けた時はまだ3決があって、しかもホーム韓国に勝って(確かハカンシュクルの最速記録ゴールがあったはず)3位になってくれたもんで結構達成感はあったんだが、今回は優勝も見越せるアルゼンチンがトーナメント戦の巡り合わせにより準々決勝で消えるというのは非常にもったいなく、非常にせづない。これが事実上の決勝だったと言われるように、ドイツには是非頑張って欲しい。

Round-8前

残り8試合、56/64が消化されたわけだが、そのうち半分(+ちょいぐらい)は試合を見ていない。GL中は1日3試合が10日連続、4試合が4日連続、間断なくRound-16の2試合を4日連続、初日の2試合と合わせ合計19日連続で世界最高峰の試合が組まれた。やっぱねー、これやっぱ、まあヨーロッパのリーグ日程の影響が大きいんだけども、やっぱ詰めすぎ。
事前に予定を見て、GLのうち気合入れてみる試合(アルゼンチン・ブラジル・スペインの試合など)を決めて、その試合がある日は時間をずらして1試合目に見るようにしてたので、その点問題はなかったんだが、その他の「見たいけどやや優先度が落ちる試合」についての相対的な価値低下がものすごかった。だってや、これ、ワールドカップの試合だぜ。通常なら多くの試合はプレミアムな試合のはずなんだけど、それがいくつも、それも連続であるとどうしても効用は低下する。一応見つつも、なんかこう乗り切れてない時があったりして、非常にもったいなかった。これはまあ、4年に1度のお祭りとして捉えればしゃーないかな。
予想のまとめで書いた
◎ブラジル
○イングランド
△アルゼンチン
▲ドイツ
4チームともRound-8に残っているという順当さ。強豪が熱い試合で勝ってきてるから今回のワールドカップは総じて面白い。予想の時点ではRound-16のやぐらを一切考えず書いたもんで、今時点での訂正を加味して最終予想。
◎アルゼンチン
○ブラジル
イングランド
ドイツ
アルゼンチンはドイツに勝ち(勝ってくれ)、ドイツが消える。イングランドは当初の予想と比較して、リオとテリーの最終ラインでのプレイミス、GKロビンソンとの連携ミスが結構印象に残ってるのでちょっと落ち目。ブラジルは相変わらずブタがブタのままで、アドリアーノも馬力無く、カカとロナウジーニョの奮闘がかわいそうに見えてしまう。いっそフレッジ/ホビーニョに変えちゃうなんてどうだろうか。
決勝はこれまた願望込めて、ヨーロッパでのワールドカップでアルゼンチン×ブラジル、てなんかドラマ生まれそうでいいじゃないの。で、世界中の視聴者の前でソリンがキモいにやけ面でカップを掲げると。
※ようやく追いついて来たが、Round-16の試合も4つ見てないのがあるんだよなあ。でニュースとか見てるうちに結果だけ知っててせづねえ。

イタリア 1 – 0 オーストラリア

俺は、こういう勝ち方をしてしまうから、イタリアサッカーが嫌いだ。

PK前トッティ

全体的にイタリアの出来は悪かった。前半は、一発勝負のトーナメントということで、気温の高さも考慮してか古来伝統の省エネサッカー「カテナチオ」を敷いて、サイドバックがあまり上がらず、攻撃もFWの3人+ピルロだけでフィニッシュまで行く形を徹底していた。1トップのトニはでかい体格に似合ったスケールの大きさと、でかい体格に似合わない足下の確かな技術で、無理目なクロスやスルーパスも強引にシュートまで持っていってしまう。何度かもたらした決定機もシュウォーツァーの好セーブで得点できなかったが、個人の質としては非常に高い印象。展開はオーストラリアの攻勢で流れていったんだが、それもイタリアの思惑通りといった感じで、度々繰り出されるカウンターのキレが凄まじく、カテナチオのお手本のような戦いで終了。
後半、激しいプレーでおなじみのマテラッツィがおなじみレッドカードで退場した時が、終末への始まりだった。10人になったイタリアはFWとOMFを一枚ずつ残し、あとはドン引きカウンター狙い。オーストラリアは攻勢を強め後半ほとんどの時間帯流れを握っていた。ただシュートが決まらない。チャンスの芽は早めのファウルで潰される。GKブッフォンの鬼セーブ。
おや、これはこれは、毎度おなじみイタリア「ドM」サッカーではないか。
守り慣れしたイタリアと、攻めに酔ったオーストラリア、終了間際にドン引きだったサイドバックが仕掛け、しばらく守備をやっていないオーストラリアに誘うようなPK。相当のプレッシャーがかかろうが、決めるべき人がふつーに決めてしまう。
なんじゃこりゃあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
この絶望的な負け方だけでヒディングを批判することは到底出来ない。大陸間プレーオフの高い壁を乗り越え、さらに初出場GL突破は彼の存在に依るところが大きい。
しかし、この流れに抗うことはできた。ヒディングが交代選手を次々投入することで、「90分で勝つ」というメッセージを伝えるべきだった。だが延長30分も視野に入れていたのか、結局アロイージを投入しただけで終わってしまった。いやこれは結果論ではなく、毎度おなじみのイタリアサッカーの光景を打破するため、メッセージを込めた選手交代はできたはずだ。ヒディングの采配が最後こういう形になってしまうのはある意味必然の結果であり、こんな後味悪い(イタリアファンにとっては激烈な勝ち方かもしれんが)勝利をやってしまうイタリアは強いチームだし、もう一度言うが、俺はそういうイタリアが嫌いだ。
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あんまむかついたもんで、録画しておいたデイリーハイライトを見てみると、誰か忘れたがイタリアにとって2002の韓国戦、トッティがシミュレーションで退場し敗退した、その主審がスペイン人だったということで、因縁めいたものを感じたらしい。また別なのでは(何で見たか/読んだか忘れた)リッピが先手を打って交代選手を的確に投入したのと、ヒディングの采配に迷いを感じたという、監督の心理戦に焦点を当てたものもあった。人によって見方が色々あるから面白い。

ポルトガル 1 – 0 オランダ

Round-16屈指の好カードのはずが、主審が壊した試合となった。

退場の3人

確かに両チームともフィジカルコンタクトを厭わず、危険の芽は早めに潰していくような雰囲気はあった。その背景にはこのゲームの難しさ・重要性について双方ともチームのコンセンサスがあった所以だろうし、前半のコスティーニャの累積レッドカード、60分頃のブラーリューズの累積レッドカードは妥当なジャッジングだと思う。「壊した」というのはここではない。
きっかけは70分頃、ポルトガルゴール前の混戦で負傷したリカルド・カルバーリョをピッチ外に出すため、ポルトガルのカウンターを止めるようにイワノフ主審がレフェリー・ボールとして試合を中断させた。こういう場合再開はレフェリーからのドロップボールで、守備側(この場合オランダ)が攻撃側(この場合ポルトガル)の陣地に大きく蹴り出し、攻撃側のゴールキック・安全な位置からのスローイン等でリスタートすることがマナーというか、それこそFIFAが掲げるフェア・プレイとして、暗黙のうちにそうなっている。
しかしこのシーンでは、レフェリーがドロップボールからのリスタートを徹底させず、守備側のコクーが横にパスしてそのままインプレー(オランダの攻撃)になってしまった。この直後まずデコが危険回避するように後方からのタックルでイエローカード、もめたところでスネイデル・ラフィーが立て続けにイエローカード。その後ポルトガルのプレーヤーが主審を取り囲み何か訴える様子が何度か見られた。
この裁定が引き金となり、互いのテンションの高まりが抑えられない形でラフプレーが頻発、「フェア・プレイ」の見地から主審は次々にファウル・イエローカード・累積レッドカードを出しまくり、終わってみれば9人-9人。会場内も最後までブーイングの嵐だった。
荒れた展開になってからは大味な試合ながらも、両者とも質の高い選手が揃っていてあわや得点というチャンスシーンが幾度となく作られたので試合だけ見れば面白い残り20分だったが、ジャッジに対する不信感は最後まで払拭されなかった。試合後の会見でファン・バステン/フェリペともにその点を指摘していたし、特にファン・バステンは決して負け惜しみではなく、実際に主審が試合を壊してしまったのでもう言っちゃえって感じでぶちまけたのだろう。その気持ちもわかる内容だった。
スタートからの熱さで言えば前日のアルゼンチン-メキシコに負けず劣らず、顕著に違うのはブサッカとイワノフのレフェリングの基準設定のように感じる。ヒートアップが予想される試合ではそんなに危険でないものについてはファウルを取らない(ファウルの判断基準を高めに設ける)ようにしたり、また危ないスレスレのプレーについては口頭注意を徹底したり、一旦クールダウンする間を作ったりするなどしないと、この試合のように壊れてしまうのだろう。ブサッカは流して好ゲームを演出し、イワノフは「フェア・プレイ」に則り、負けたオランダは後味の悪さ、勝ったポルトガルにしても手痛い傷(デコ・コスティーニャ・ロナウド)を負った。