UCL決勝後

レーマンの退場に関して本国ドイツではカーン復活論が再燃してるらしいが、あれはどう見てもプロフェッショナルファウルとして仕方がないものだった。アンリ・ヴェンゲルその他のチームメイトも「まーしゃーないな」みたいな接し方をしていたし、その後の審判判定に関しては賛否両論あるだろうが、とにかくとっさの対応にしてはレーマンは正しいと思う。
残念なのは、その後(前後ロスタイムも含めて)約80分を今のバルセロナ相手に「10人-正GK」で戦わなくてはいけなかったということだ。プレッシャーの中でのポゼッションが出来るバルセロナの攻撃に対して、自然とアンリ残しの全員守備になるのは仕方ないことだし、特にゲーム開始直後からどちらかといえばアーセナルの方が攻め姿勢を見せて主導権を握っていただけに、結果どうこうの前に期待していた攻め合いにならなかったのが、本当に残念だった。
ヴェンゲルのパスサッカーは実はプレイヤー全員のタフさがベースになっていると思うんだが、そんなタフ集団アーセナルがガソリン切れを起こし、アンリさえも明らかなパワー不足を感じさせた70分以降の試合はもう、ファンとしては酷すぎて見てられなかった。75分の同点で燃え尽き、直後の逆転はメンタルな部分のあきらめもかなり影響したのではないかと思う。ヴェンゲルのがっくりもカメラに捉えられ、あとはフツーにポゼッションで凌がれ、万策尽きた。
一つの時代を作ったチームとして、プジョル・ロナウジーニョ・(チャビ)・エトオ・ラーションがいたバルセロナがヨーロッパを制覇したというのは、サッカーファンとして自然とうれしくなることだ。アーセナルにとって千載一遇のチャンスではあったが、この点は素直に受け入れる。「ヴィエラ後」を踏み台にしてUCLファイナルまで進んだ原動力は来期にも活かして欲しいし、つーかおまえ、アンリよ、残れよなあ。
来シーズンはアシュバートン・グローブでのベルカンプ引退試合から始まる。これで財政的にもマンU・ニューカッスル並になるはずだし、若手の熟成を期待しつつ、しばらくはWCモードにチェンジ。
というわけで、前回もやったWC予想をやっていく予定。併せて注目チームの覚え書きも書こう。

UCL決勝

今日(見るのは明日)ついにアーセナルがヨーロッパ初制覇することになるが、そうはいっても相手がバルセロナという現時点で最高のクラブチームなだけに、こちとらのファンの希望通りうまくいくとは限らない。むしろ、自分がどちら寄りでもなくニュートラルな視点から見るならば、断然バルセロナ勝利を予想するだろう。もちろんそれをわかった上でのアーセナル勝利を確信しているのは、ファンであるからに他ならない。
        V・バルデス
オレゲル  プジョル  マルケス  ジオ
(ベレッチ)
         エジミウソン
      デコ     イニエスタ
 ジュリ            ロナウジーニョ
(ラーション)   エトオ
—————————————
          アンリ
 レジェス            リュングベリ
        セスク   フレブ
             (ピレス)
           G・シウバ
 A・コール  キャンベル  トゥレ  エブエ
           レーマン
改めて並べると、・・・・・厳しい。
似たフォーメーションを取っているが、特に前目の選手の役割が若干違っている。この辺が勝負の肝になりそうだ。
トップのアンリ/エトオは、前者がサイドのスペースに流れがちで、後者がDFとの1vs1を仕掛けがちという違いはあれ、基本的には前線に張ってポストするのが役割だ。
リュングベリ/ジュリはガッチガチのウイングタイプ。とにかくガチャガチャ動いてかき乱すのが役割だ。
1つ目のポイント、レジェス/ロナウジーニョ。レジェスはアンリの子分として、同じ左サイドでかぶらないように気配りしながら、空いていれば突破を計る。一方ロナウジーニョは王様として、サイドに行くより中への1vs1を挑んだり、ラストパスを供給する。つまりレジェスは生きるも消えるもアンリとのコンビネーション次第であり、ロナウジーニョは絶対的にフリーな存在だ。これではレジェスの方が分が悪い様に見えるが、アンリ込みで考えると、コンビが上手く噛み合えば影武者となりアンリをフリーにしてくれるチャンスも増えるので、あながちどちらがどうとも言えない。
二つ目のポイント、守備専MFの前の二人。具体的にはセスク・フレブ/デコ・イニエスタの役割だ。パサーやバランサーを置くのをよく見るが、フレブはパス出しに特徴があるのではなく、より前目の選手に近いドリブル突破の動きが多い。一見テンポのゆるいヘンテコな動きをするが、それがフェイントとなり独自のドリブルの間を持っている。
要点は、レジェスの頑張り(=アンリの有効活用)と、フレブのドリブルでバルセロナDFにどれくらいアタックかけれるか。あと意外とV・バルデスなんかやらかさんかな。

結果

[GK]
川口
楢崎
土肥
[DF]
中澤
宮本
坪井
田中
加地
サントス
???(右サイド控)駒野
???(左サイド控)中田浩二
[MF]
中村
中田英
福西
小野
稲本
松井
遠藤
小笠原
[FW]
久保!!
柳沢
高原

>大黒
>玉田
うすらハゲ、やりやがった。
松井に関してはかなり主観的な期待があった。いくつかリーグ・アンの試合も見て、1試合に何回かは必ず存在感あるプレイをするけど、なぜかハゲには冷遇されていた(ハゲが一度ルマンに観戦に来たときダメダメだったのが影響してるか?)。スタメンは無理かもだが、局面を変えれる一人として加えて欲しかった。
大黒も玉田もそりゃ代表に選ばれるぐらいだから確かにいいFWだ。だがそこ止まりだ。これに関しては柳沢も同様。仮に日本がGL突破を目指しているのであれば、久保のような規格外をギャンブルでも使わなければできっこない。
2004年のアジアカップがターニングポイントだった。あの直前にハゲを解任するタイミングがあったのに、適当なところで負けてれば解任理由になったのに、ヨルダン戦・バーレーン戦でのミラクルな勝利で優勝。そもそもこんなアジアの新興勢力にミラクルでなきゃ勝てないのがせづねぇが、23人が決まった以上、最早このジーコが持つ天性のミラクル強運と共に心中するしかない。戦術や選手起用の妙は期待せず、JAPANサポーターはただ一心に祈祷・願掛け・絵馬・お百度等で願い続けるしか、手段はなくなった。頑張ってお祈りしてください。

予想と希望

[GK]
川口
楢崎
土肥
[DF]
中澤
宮本
坪井
田中
加地
サントス
???(右サイド控)
???(左サイド控)
[MF]
中村
中田英
福西
小野
稲本
松井
遠藤
小笠原
[FW]
久保
柳沢
高原

[俺的希望] 3-6-1
       久保
 松井  
       中村
サントス       加地
    中田  小野
 ??? 中澤 ???
      楢崎
GKは好不調の激しい(裏を返せば好調の時はすごくいい)川口よりも、安定感の楢崎。なんかうやむやのうちに川口になっているが、これはOKなんだろうか。
DFは正直今の代表候補の中では、中澤以外どうでもいい。松田・トゥーリオあたりが欲しいところ。
これまでの試合を見ても3バックの方がいいだろう。実質5バックで、サイドは両SMF(サントス・加地)ディレイ+DMFで数的優位を作りケアする。サントスの守備に期待してはいけない。
逆に言えば、3CBのアウトサイド側がサイドにつり出されるようでは全く意味がない。ただ、こういうシーンはよく見る。
MFは中村を中心に考えていることは明らかで、プラス守備的なポジションに絶対二人欲しい。でもこれだと潰し屋とか汗かきといった部類の人間が皆無になる。
キーパーソンは松井。昨日最終節リヨン戦では大敗してたが、実際欧州トップリーグで主戦力扱いは松井だけ。1月のリーグ・アン月間MVP受賞もある。
FW
て感じで、消去法で1トップとなる。そうなると久保しかない。実質松井はどちらかのサイドに張っていて、久保と絡む形が見える。
[俺的希望2] 4-1-2-2-1
       久保
中村          松井
    中田  小野
       福西    
??? 中澤 ??? 加地
       楢崎
最近流行りのやつを。4バックではやはり左サントスでは怖すぎてだめ。中田浩二とかか?
福西を守備専として使うのはもったいない気もするが、代表候補でこの位置の守備専できるのは彼か稲本ぐらいしかいない。
うーん。考えるのがアホらしくなるほど3敗が見えるなあ。

なぜ更新は止まったか

過去の更新を見ればわかるが、俺の場合このサーバースペースを日記と言うよりも、サッカー/映画の感想文を書き、その時々に感じたものを残しておく手段として有効活用していた。一応個人のパソコンの一つを24時間動かしてもらってるので、「有効」でないと申し訳ないという部分もかなりある。つまりそれら文章を残しておくことは、書いている俺自身にはもちろん過去の自分の意思を見ることが出来るという点で有効だが、それ以外の、全然しらん人にとってはどうかというのは別の話だ。
でこの、サッカー/映画の感想はいかにして止まったのか。
サッカーに関しては、基本的にはサッカー競技それ自体が好きで通常ニュートラルな視点で見てるんだが、殊アーセナルであれば話は別。かなりサポーターチックな感覚になる。昔(ヴィエラがいた頃)は恐らく、ダイレクトパスをぽんぽんつないで、スペースに人がどんどん飛び込みパスコースを造っていくスタイルそのものが好きなんだろうなあと思ってたんだが、いやなんというか、これほどアーセナルが好きだったのかと思い知らされるほどに、ヴィエラの抜けたズンドコ節の状態でもかなりサポーターチックな状態だった。プレイスタイルが好きなはずが、いつの間にかチーム自体が好きになってしまっていた。なので、今でこそUCLベスト4に進出しているが、あのシーズン序盤~中盤のしょっぱさを知っている人ならわかると思うが、とてもなんも書く気にはなれない。あしゅりー・コールが死に、ローレンが死に、キャンベルが死んだり生き返ったり、正直最低の頃はこのままアンリやジウベウトがチームを去って空中分解するのではないかと危惧したほどだ。ようやくフレブがフィットし、急造4バックが安定し(ユナイテッドに2失点はUCLの後遺症と思いたい)、セスクがブレイクしたもんで、今はかなりポジティブに見ることが出来る。つーかさ、明日だよヴィジャレアル戦。リーグもなんとか4位ねじこめるんでねえかと。
映画に関しては、昔から「見た映画の感想は書く」ということが自分の中の掟のように厳然とあるもので、これは好きで続けている。これも自分なりの作法があるんだが、昔から使っているHTMLテンプレートで書いていかないと、なんだか気分が乗ってこない。このブログ更新ツールにある、QVGAサイズの窓で書いてもなんかしっくりこない。だもんで、今でもテンプレートで書いた物からHTMLソースをコピーペーストしている。ただこの移植作業が意外としんどいというか、まあなんだ、別にやんなくてもいいんじゃねえか的な空気を感じ、このサイトにアップロードされていない感想文が約50。今回サイトの概観更新を電話で聞いて、じゃあまあ、折角だから更新するかという次第となった。
というわけで、どっちも更新します。

ロスト・イン・トランスレーション ★★★★★

アメリカから日本にやってきた男と女が、日本に色々違和感を持ち、若干恋愛する話。
まず内容は置いといて、スカーレット・ヨハンソンと言えば「ゴースト・ワールド」でのソーラ・バーチの完全なる引き立て役で、控えめで目立たない印象しかなかったのだが、なんか知らんが本作で主演女優だったり、ハリウッドが一応本腰入れてる「アイランド」でユアン・マクレガーと同格扱いだったり、いつのまにか大物女優になってた。個人的には断然ソーラ・バーチなんだがなあ。いやデブ専じゃないよ。
「翻訳の中で(過程で)喪失」。オレはこう解釈する。一つは単純に、アメリカ人が日本に来てみてアメリカ人目線でのおかしな点や不便さや、逆に新しい感動であったり発見・認識をするという、異文化に直に触れてみての再構築を意味しているのだろう。つまりこれまで抱いていたであろう漠然とした「日本観」を喪失し、実際自分が触れた印象と置き換わる。なにも字面そのままに「言語の違い」という点だけでなく、もちろん言語障壁が一番大きなものなのだが、これは伝統文化や現代日本の(日本人のオレでさえ感じるような)違和感も含めた事だと思う。もう一つは、これはストーリーと直結しているが、異文化にやってきて自己喪失感を感じた時に、似た者同士が恋愛感情を持ってしまうという話だ。
つまりこの映画はまずおそらく監督のソフィア・コッポラが実際昔日本に来た時に感じたであろう異文化感覚を何かに書いていたり、思い出したりしてそれをとにかく散りばめたということ、そしてそれだけでは単にドキュメンタリーになっちまうもんで、そういう感覚を感じたという設定の男女を置き、とりあえずまあ恋愛話にしてやっつけた?のか?まー実際問題そのへんのウェイトの置き方はわからんが、殊日本人がこの映画を見ると外国人目線の異文化認識という、「自国文化の逆輸入」が起こっていて、その点だけでもかなり楽しめると思う。
具体的に覚えてるのでそうだな、ゲーセンは個人的に印象深い。あんなにやかましいのに各自が勝って気ままに楽しんでいて、その「場」に対してなんの違和感ももっていない。オレも実際小学校高学年ぐらいからビデオゲームをゲーセンでよくやっていたので、完全にその感覚は麻痺していた。これは軽く衝撃的な再認識だった。あと選挙カー。あんなもんは日本人の多数が違和感もってるのに、アメリカ人にとってはそりゃインパクトある光景だろうなあ。
一方で、日本の伝統文化的な行事や日常のあり方での「美意識」ともいえるものが、伝わる人には伝わっているという事が素直に嬉しかった。つまりこの人は端から拒絶する気は無く受け入れる度量があるというのが、ニュートラルな視点を保っているという証だ。
ストーリーもやっつけた割には?よくできてんじゃなかろうか。出会いから発展の過程も自然ではあるし、距離のとり方も「いかにも演劇」な展開ではなくすんなり入り込める。
異文化交流は、この映画でも分かるとおりまず言語の障壁があり、次に文化そのものの隔たりがあるので、概してめんどいししんどい。ただその先にある文化のミックス行為というか、生の異文化体験は間違いなくスリリングだし、一歩踏み出せば自分にもその返りがあるだろうから、なるべく積極的にやっていきたいもんだ。

10ミニッツ・オールダー/イデアの森 ★★★★★(企画意図を買った)

8人の監督が「時間」をテーマに10分・予算同額で製作した8つの短編映画。
1.水の寓話 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
水汲みを頼まれた男がトリップする話。
途中からオチは見えたが、それを前提に野郎が色々やってる間もずっとあのじいさんが待ち続けているということを想像しながら見るとなかなか面白い。でもなんか腑に落ちんというか、SFチックに仕立ててごまかした感じでせこい印象がある。
2.時代X4 監督:マイク・フィギス
全体的に暗い画面構成でしかも4分割ちゅうのはあまりにもオナニー過ぎて、正直見る気なくすし理解する気もおこらんし、パス。
3.老優の一瞬 監督:イジー・メンツェル
ある俳優の歴史を10分で振り返る。だけ。そこらのじいさんにもそれぞれにでっけえ歴史があんだぞっちゅうことか?
4.10分後 監督:イシュトヴァン・サボー
オーソドックスなショートフィルム。異国語を学習していて10分後には肉親殺しになってしまう。10分でも全く思いがけない事が起こってしまうということか?
5.ジャン=リュック・ナンシーとの対話 監督:クレール・ドゥニ
たまたま列車の向かいに座った?禅問答が好きそうな二人の濃密な会話と、対照的に景色を見ながら素早く過ぎ去る同じ10分間。それほど10分というものは人によって生き方を変える(振り返る)きっかけにもなれば、無意味に過ぎ去る極短い時間であるということだろう。
あるいは人によって10分の楽しみ方は色々あるよ、ということかもしれん。
6.啓示されし者 監督:フォルカー・シュレンドルフ
蚊を尺度にして過去・現在・未来を現在の地点から鑑みようとしているぽい話。つまり色々説明があるんだが、人間の行動も過去の「記憶」と、現在における過去の「記憶」を元にした行動(映画中では「注意」となっている)、そしてその現在の積み重ねである未来を描いている。
例えば蚊を避けようとする行動は過去の経験からくるものだし、実際そこから導く行動(手で蚊を追い払う)を実行するのは現在、そしてその行動が及びも着かない「死」に繋がっているかもしれないという未来、一見家族バーベキューを映し出したなんのことはない映像だが、こうやって時間の流れの3区分を意識しながら改めて見てみると時間に対する様々な発見があっておもしろい。
と同時に、今この行動は3区分のいずれに位置しているだろう、とか、そもそもこれを見ている俺はどういう時間区分に所属しているのだろうとかだんだんこんがらがっていい感じにトリップできる。そして最後の脚注が決定的。紀元前からやっぱ人間はこんなどうでもいいし本源的な悩みを抱き、行動してたんだなあとなんだかほっとしてしまう。
7.星に魅せられて 監督:マイケル・ラドフォード
時間旅行から戻ってきたら、自分の子供が老人になってた。
8.時間の闇の中で 監督:ジャン = リュック・ゴダール
しんどくなって見るのやめた。
以上。最後はテーマの深遠さに辟易してうんざり、って感じで途中放棄。人生のメビウスが、時間と人間そのもののかかわり方を扱っていて、ドキュメンタリーだったりドラマ仕立てだったり観念的なものだったりと色々楽しめたが、イデアの森は時間という概念そのものがテーマになっているので、全体的には意味深でわかりずらい内容のものが多かった気がする。その分、映画を見ながら自分もトリップしてしまうことがたびたび。たまにはこういう短編集も見るとおもろい。

ブラッド・ワーク ★★★★☆

心臓移植を受けた元FBIの有名捜査官が、ドナーの心臓が殺人により提供されたことを知り、犯人を捜す話。
一番身近にいる奴が一番怪しいというのはシリアス・サスペンス系の古来からの常套手段で、今回もその線で行くならばまさに依頼を持ってきた姉貴か、手伝わされるハメになったボートの隣人かということなんだが、本作はその王道を突っ走ってくれたということで、その点どんなひねくれ者や正直者が見てもおもしろさに安定感があることは保証できる。つまり、犯人追及モノで最重要の「あいつか~」感がクライマックスにおいてかなりいい感じに消化されるからだ。
また本作は現役の頃FBI捜査官として大きな仕事を扱っていたという事と、殺された妹の心臓を提供されているという血のつながりの様なものが対比してあって、彼が真犯人探しに異常な執念を燃やしているのも納得できるし、仕事以上の運命めいた何かで行動しているという点で共感できる。だからして、全体を通して描かれる驚異的な犯人追及までの「御都合」に関しては、血と血が結びつけた何か得体の知れないパワーがそうさせたと思って見ると意外におもしろい。
例えば件の殺人が起こったスーパー?から出た後で、異常なまでの嗅覚で犯人と何らかの関係のある車を見つけてショットガンをぶっ放したのは、これがもし単なるFBI捜査官であれば「そんなわけねーよ」と一気に醒めてしまうところが、本作では「妹の怨念+妹を供養したい人間の執念」があの車を見つけさせたのだと取ることもできる。
あとはまあ、設定からもわかるようにもう「おじいさん」と言っても差し支えない巨匠クリント・イーストウッドが、がっつりとはいかないまでもガンアクションに挑戦しているというのはすばらしい。志村けんが「だいじょぶだあ」は無理でも深夜に「変おじTV」(定期的に名前が変わっているぽいので今はどうなってるかわからんが)をやってるのとちょっと似てる。こういうじいさんはいいね。

10ミニッツ・オールダー/人生のメビウス ★★★★★(企画意図を買った)

7人の監督が「時間」をテーマに10分・予算同額で製作した7つの短編映画。ちなみにこの中の監督の映画を見たことは無く、名前だけ知ってるのがジム・ジャームッシュとヴィム・ヴェンダース。
1.監督:アキ・カウリスマキ テーマ:結婚
10分で結婚を決めたらしいが、石油を掘りにシベリアに行くから決断をするという以外は動機付けが不明。唐突にバックバンドに時間割いたり、バーテンの目線が熱かったり、最後の落ちも「あっそう」、これ10分は無理あったんじゃなかろうか。
2.監督:ビクトル・エリセ テーマ:生死
これも微妙だなあ。生後間もない赤ちゃんの生死を軸に、各世代の人間がそれを見守っているという事で時間の幅を表現しているんだが、正直よくわからん。ぼんやりしすぎ。
3.監督:ヴェルナー・ヘルツォグ テーマ:未開の住人
上二つのテーマは抽象的だったが今度はがらっと変わってドキュメンタリータッチ。冒頭から説明文で始まるのは超短編映画ではアリな方法だろう。未開の原住民が現代の文明に出会って、石器時代から現代へ一気に移り変わった状況について描いている。時間的には数千年の隔たりを数十年でなんとかしてしまうのは人間の柔軟性だろうが、すべてを飲み込めていない状態でTシャツやキャップをかぶっている姿はやはり異様だ。
4.監督:ジム・ジャームッシュ テーマ:女優のブレイクタイム
女優の休憩時間10分の出来事を映してるだけ。ほんとそれだけ。「休憩」といいつつ全然休んでねえじゃねえかということか?
5.監督:ヴィム・ヴェンダース テーマ:緊急時の10分は超長い
間違って大量のドラッグを摂取してしまった男が病院を求めて徘徊する話。自分自身ドラッグの経験はないが、たとえばこれを猛烈にうんこがしたくなって家路を急ぐ10分と置き換えると、そのスリリングな展開や自分自身吹っ切れて絶叫したりいろんな幻覚が見えたり、あるものがものすごいスローモーションに見えたりするといった、いわゆる「トリップ感覚」はすごいわかる。なおかつこれは生死のかかったドラッグの大量摂取。10分でハラハラドキドキとスリルと最後に笑いを盛り込んだのはすばらしい。
6.監督:スパイク・リー テーマ:ゴアVSブッシュ
「未開の住人」と同様ドキュメンタリータッチ。こちらはゴア陣営のスタッフの証言から当時も問題となった大統領選挙の内幕について描いている。でもこれってヒストリーチャンネルやディスカバリーチャンネルがやるべきことで、別に映画でやる必要は無いよなあ。
7.監督:チェン・カイコー テーマ:昔あった街並み
今中国は臨海地域の経済繁栄期で、冒頭に象徴的に映し出された超高層マンションがいたるところにできてそれが飛ぶように売れるらしい。たぶんこの監督さんは中国人で、そういう過去の遺産をぶっ壊し高層マンションに移行していく現在の中国を皮肉っているように感じた。
以上。中では「緊急時の10分は超長い」が一番面白かった。いわゆる映画通は1・2・4あたりを好むと思う。自分のようなハリウッド中心系は5・7。ドキュメンタリーが3・6て感じかな。ドキュメンタリーは映画でやる意味ないような気がする。いずれにしろ、こういう企画というのはそれそのものが面白いので、もっとやりゃあいいのにな。

サハラに舞う羽根 ★★★★☆

サハラ砂漠へ出兵直前に除隊した英国軍人ハリーが、4枚の羽根を返しに行く話。
当時羽根を送られるということは臆病者の証だという説明が冒頭にあったし、またハリーのような英国軍人はそんなにも誇りを重んじるのかというのもあるが、まずこのハリーの超人ぶりがよくわかんない。絶頂期のマルコ・ファンバステンそっくりだった顔もアリ・カリミに変貌し、このような怨念めいた羽根に対するこだわりがあるのならば、なら最初から出兵しておこうぜと正直思う。
一見メインは羽根を介しての友情の確認がテーマなんだろうが、やっぱこの映画で一番漢を上げたのは素性のよくわからんアブーだろう。彼のパワフルさが無ければ収容所脱走もかなわなかったし、どっから来るのか知らんがうまいことハリーを助けてくれる。
あと当時の奴隷の扱い方について、これほど具体的に描いた映画も少ないだろう。ギュウギュウ状態での立ち寝、死んでも放置、メシは一定量を毎回奪い合いなど、まさに隷属するべき人々として、ひどい話だが適切に描いてあった。うん、まだメディアのようなものが存在しない時代は、女は身分の貴賤無く当然のように犯され、男はあのような処遇で強制労働やったんだろうなあ。昔ってすげえ。