二・二六事件の話。
二・二六事件は現役陸軍将校の内閣転覆クーデターで、主な決起者は自殺・処刑されたがその後に大きな影響を及ぼした。事態の収束のため広田内閣が新たに組閣され、その際「軍部大臣現役武官制」を復活させた。今で言うシビリアン・コントロールの放棄である。これがどのような意味かは、1年後の日中戦争突入とその後の太平洋戦争突入でよくわかる。
閣僚誅殺決行後、彼らは天皇からの追認を期待するのだが立場が弱い分なかなかそうもいかない。スローガンとして使われた「昭和維新」というのがこの事件の性格を象徴しているように感じられた。つまり彼らはかつての明治維新のような、名も無き若者が自らの意志で行動し社会を変革するという、時代がもたらすよくわからないエネルギーのようなものに憧れ、魅了され、それに陶酔したのだと思う。両者で異なるのは後ろ盾の有る無しだった。計画性の無さからも「維新」のノリでやっちゃったのは感じられる。
映画は事件発生~終わり、1936年2月26日 – 2月29日までの経過を描いていて、事件の背景や当時の状況は冒頭にナレーションによって手短に説明されるのみだ。よっていかにして彼らがクーデターを決意するほど追い込まれたのかはわからず、また陸軍内部がどういう権力闘争にあったかも、映画のみからはわからない。多少歴史を知っていれば情報としての「皇道派」と「統制派」の争いや思想的裏付けも多少わかるためなんとかなるが、映画冒頭からクーデターだと面食らう人が大半だろう。それで後半からの青年将校らの美化(なぜか家族思いを積極的に印象付ける)や死に際の潔さ、最後を「天皇陛下万歳!」で締めるあたり、若干の右翼的な臭いがしてくる。天皇を役者に演じさせないというのもその影響かもしれない。
思想的に寄っていようが個人的には「そういうもの」としてこっちで勝手に補正するので特に問題はないが、ただ歴史物として見て内容は薄い。歴史上重大な事件をタイトルにした割に、内容が将校らの事だけで軍や政治や社会全体の状況が見えないのも残念だった。見る前の期待感が大きすぎたかな。ただ一つ、ホテルを占拠した安藤大尉が言った名言「歴史は狂人が作る」はその通りだと思う。