ファッションデザイナー八杉恭子はデザイナーとして絶頂期にあった。その折、ある黒人男性がファッションショー会場のエレベーターで死ぬ。手には詩集。麦わら帽子の遺留品。「キスミー」「ストーハ」などの言葉を手がかりに、刑事棟寄(むねすえ)が黒人男性の素性を知るため渡米する。
話が進むに連れて、登場人物それぞれの過去が実は折り重なっていたという、「おお!」なんて思ってしまう話の作りにまず飽きがこない。棟寄が自分の過去の傷に直接でなくガラス越しにケリをつける、この辺に棟寄なりの人間としての理性、まさしく人間の証明があってグッときた。
映画の中で何度となく詠まれる西条八十の詩、それを棟寄が八杉恭子に向かって「かあさん、あのむぎわらぼうしどうしたでしょうねえ・・・」と語りかけるんだが、優作独特のズ太い声が哀愁を誘う。そう、とにかく悲しい人の総マクリなのである。
しかしこの映画はなんと言っても「ジョー山中」だろう。どんな人かは知らんがこの映画の主題歌「ママァ~、ドゥユゥリメンバァ~」このフレーズは耳に残る。残りすぎる。というかこの映画のテーマにぴったりの主題歌なので、異様に耳に残ると言うことだ。
ラスト、丘に立って真犯人を逮捕しようとするときキーアイテムの麦わら帽子が空に舞い上がるシーンは印象的だった。
話は面白いし推理の積み重ねなので間延びしない。ただ「野獣死すべし」を角川作品、松田優作作品両方で見ても最高傑作と思うので、どうしても★はひとつマイナスせにゃならんな。