東京原発 ★★★☆☆

東京の中心部に原子力発電所を建設しようとする知事らの話。

震災から約一ヶ月が過ぎた。福島第一原子力発電所の事故は未だに収束のメドがまったく立っていない。メドどころか「収束に至るまでの道筋」すらも示されていない。この原因は初期段階の判断を間違って、現状原子炉を冷やすためまさに湯水の如く冷却水を注がねばならず、その汚水処理が当面の課題になっていることが大きい。今後数年は放射性物質が薄く広くまき散らされ、日本にいる限りは一定期間の摂取総量を低下させるために、日々風向・天候・水・食料品などに注意せざるを得なくなった。さらに最悪なことに高濃度汚染水を故意に海上投棄したことで、世界の見方は、日本人の国民性への賛辞→海洋汚染国家のbureaucracyへの批判へと論調が変わっている。

実際に確認したわけではないので確からしい事しか言えないわけだが、放射性物質が汚水として排出されたり大気中に拡散している状況から判断して、燃料プールの機能不全/圧力容器の損傷/格納容器の損傷/炉心溶融、いずれかまたは複合的に発生しているのはほぼ間違いない。さらに京大の小出教授によると再臨界の可能性もあるということで、大きな余震も多発しているし、本当に未来がどうなるかはまったくわからない。

また先日(20110412)ついに公式発表で事故の影響評価がレベル7に引き上げられた。チェルノブイリが「太く・短く」とすると福島は「薄く・長く」という違いはあるが、あのチェルノブイリに並んだわけだ。んーーー、改めて考えるともの凄い。今後数年、あるいはもっと、フクシマはチェルノブイリと同じように用いられる。今は無きDECOが昔面白半分に「チェルノブ」という面白いゲームを発売したが、「STALKER:Shadow of FUKUSHIMA」が出てもおかしくない状況になってしまった。

こんな状況下で映画なんか見てる場合じゃねえやと、実際ここ一ヶ月は一本も見ていないのである。震災後の状況や原発事故の映像は見ておきたいが、テレビはこんな大惨事でも相変わらずワイドショー的な取り扱いしかしないので、もう日本はいいやってことで、もっぱらCNN・WSJ・TIMEなんかでニュースを漁っている。

WSJは独自ソースに基づくニュースを提供しており、しかも日本版サイトがあるので見やすい。CNNは取材も独自に行っていて(東電の社員寮へのぶっ込みが一部で話題になった)、しかも映像ニュースを頻繁に更新しておりこちらもかなり使える。TIMEは一つ一つの記事がなんか知らんがすごい気合入ってて長いんだが、「海外メディアはこう見てる」というのがよくわかる。一応リンク貼っとくか。

WSJトピックス:東日本大震災 http://jp.wsj.com/Japan/node_196370
WSJトピックス:福島原発事故 http://jp.wsj.com/Japan/node_216000
CNN 2011 Japan Disaster http://topics.edition.cnn.com/topics/2011_japan_disaster
TIME The Japan Quake http://www.time.com/time/specials/packages/0,28757,2058716,00.html

わからない英単語は
スペースアルク http://www.alc.co.jp/index.html
黒猫の単語帳2nd http://www.vector.co.jp/soft/winnt/edu/se451231.html
黒猫の単語帳2ndは常駐してるとクリップボードの英語を自動抽出し、どっかの英語データベースから日本語訳を検索して自動表示するのでとても便利だ。

長い前置きからようやく本題に入るが、久々見る映画として数年前に見た「東京原発」をもう一度見て、改めて原発問題を整理してみたくなった。ここ一ヶ月のニワカ知識で、最初見たときより理解度は増しているのではなかろうかと。では以下感想。


結論から書くと、原子力、こと原発建設の是非の問題について一番重要なのは、「無関心では無いこと≒原発問題に関心を持ち続けること」である。

例えば今、まさに原発がリアルな(リアリティではなく)危機として認識されている・実感する今だと、渋谷のギャルでも原発問題について多少は考えていると思う。そりゃそうで、なんせ自分の問題であるわけだから(一番身近だと間接的ではあるが計画停電)、関心を持てない方が不自然だ。ただ人間てのは根本的に馬鹿で信用ならない生物であるから、仮にこのまま状況が、数年かかったとしても安定的に収束したとすると、人本来のアホさ全開で綺麗さっぱり、喉元過ぎると原発の事など忘れてしまう。雪印がメグミルクになると気にせず牛乳を飲んでしまうし、選挙が終わるとマニフェストなどどうでもよくなる。「いいじゃん、いいじゃん」で流してしまうのだ。

牛乳や選挙ぐらいならまあ、それでもいいだろう(個人的には嫌だが)。ただ原発に関しては「いいじゃん、いいじゃん」では済まないというのが、震災後の人災事故で身にしみて分かった。この「原発については無関心が悪」というのを最終的なテーマとして設定している本作は先見の明があるというか、制作陣が相当分かって作っている感じがする。つーか、今なぜこの映画が全く話題にならないのか不思議なんだがどうしてなんだろう。

でその「無関心でないこと」を持続させるために、本作で描かれた東京・新宿中央公園をぶっ潰して原発を誘致、発熱すら再利用する(コジェネ)という突飛な発想は、確かに良いかもしれない。今回の事故の経過を見るに、東京電力はなるべく人々の記憶に残らないように「東京の電力を福島や新潟の原発で作っている」ことにあまり言及せず、とりあえず目の前のクライシスコントロールや計画停電に注意を向けて目をそらさせている。

これまで我々は、原発は「なんとなく安全であり、CO2排出量の少ない、単位当たりコストも安い、化石燃料の無い日本にとっては望ましいリソースである」と信じ込まされ、無関心でいられた。震災後の事故が発生し、日本人にとってそれは「関心のあること」になると原発のヤバさが露呈している。

・なんとなく安全・一発の「想定外」の事故で世界規模の大惨事となる(現実として実証済)。

・構造上地震に耐えれたとしても、冷却システムが故障すると全く意味がない。

・そもそも地震多発の日本には不向き。

・使用済燃料の最終処理がよくわからん。地下に数万年格納?
・CO2排出量の少ないこれはたぶんその通り。今はガン無視されているが、いずれCO2排出規制絡みの問題は再燃するはず。
・単位当たりコストも安い・事故による補償の総額や社会的コストを含めるとバカ高い。

・もんじゅの大失敗で技術的未来も暗い。
・化石燃料の無い日本にとっては望ましいリソースであるこれもその通り。

要するに原発のメリット2点「CO2が少なくて化石燃料でない」ものがあればいいんだが、結局今の課題は「原発ヤバいから廃止するべきだが、じゃあ代替エネルギーはどうすんの」という事に集約される。

この点については本作でも最後の方に触れられている。とは言えいわゆる「クリーンエネルギー」の高効率化を目指そうという希望的観測に止まり、そういう意味では今の認識とさほど変わらない。

でも実際それしか無いと思う。電気というものが有効利用され始めてから約200年、原子力が利用されてからも70年ぐらいしか経っていない。たった200年なんだから、まだまだ大きな変革はいくつもあるはずで、そういう過渡期に「万一事故ったら数十年立入禁止」「プルトニウム24000年」みたいな激ヤバいシステムは使うべきではない。今はまだしょぼい太陽光・風力・地熱の効率を上げるよう、技術革新を模索するしか突破口は無い。それこそ、本作でも図で示されたが、エネルギー研究開発費の大半を占める原発研究予算を、それらクリーンエネルギー開発・導入のインセンティブとして振り替えればいいんじゃなかろうか。システムそのものは既に存在するわけだし、需要が増せば単位コストも低下するはずだ。


ヒゲのおっさんが解説に使った図を映画から引用

・・・・うーん。どう見ても映画の感想ではないな。でも今だからこそ、原発に関するニワカ知識が蓄積されて吸収力も高まっている今だからこそ、この作品は多くの人に見て欲しい。ちなみに最初に見た感想にも書いたが、原発についての解説以外の、ストーリー的な部分に関しては本当にクソなので飛ばして良いと思います。「言いたいことだけ表現できればストーリーなんぞどうでもいい」という開き直りにも思えるほど陳腐なので、逆に潔い。



S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl
steamではたまに4.99ドルで売ってます。