アメリカン・ハードコア ★★★☆☆

1980年代初期、アメリカ各地でわき起こったハードコア・ムーブメントについての話。

最近再燃してきたパンク・ハードコア熱の流れで見始めたパンク系映画。前見た「PUNKS NOT DEAD」はパンク全般についての、比較的長い時代を薄めて扱っていたが、本作は80年代アメリカハードコアシーンに絞られている。FUGAZI・Youth Of Today・Discharge・Chaos UK・CRASSなど、ハードコア全体で見ると重要なバンドについても、時代や地域が違うため少しも言及していない。つまり本作は、あの時代の熱さというか、時代がもたらした衝動を描く事がメインテーマとなっている。

冒頭5分で紹介される時代背景は、アメリカン・ハードコアの精神面をよく表している。レーガン政権下のネオリベ政策は、ハードコアを志向するようなマイノリティ側の人間にとって抑圧的だったのだろう。横分け、カーディガン、ファッションショー、紹介されるアイテムがことごとく「彼ら」を象徴していて、まあなんつうか、宗教的ではあるが素直に共感してしまう。キース・モリスが語ったように「勉強して良い大学入って良い会社入って良い給料貰って、結婚して二人の子供・郊外の住宅・ペット・車に車庫・・・・、人生そんなもんじゃねえんだよ(that’s not just the way it is.)」とはもうまさに、ハードコアの神髄を表しているし、誰にも分かる表現だ。

中心となるのは、この手のドキュメンタリー映画には珍しくLIVE映像である。インタビューらしいインタビューも特になく、かつての80sハードコアバンドのメンバーが、場面ごとにちょっとずつ当時のことを(思い出話のように)話すだけで、映画作品として流れを作るような意図はない。そういう意味では本作も「PUNKS NOT DEAD」と同じように、映画としてはあまり優れた出来ではないし、また興味がない人が見るようには作られていない。各バンドの説明も一切無し。見ていくと、Black FlagとBad Brainsがシーンで重要な存在だった事はわかるが、その他はthe othersとしてまとめて、LIVE映像中心に扱われる。

これは意図的にそうしたと見るべきか、映画を作るうちにそうした方が良いと感じたのか、作者の真意はわからない。が、結果的にかなりの数の、よほどのマニアでなければ名前も聞いたことも無いようなバンドを知り、また彼らが一番熱かった頃のLIVE映像を見ることで、その中のどれかに興味を持つ人がいるかもしれない。俺の場合半分ぐらいはバンド名を聞いたことがあって、大半のLIVE映像は初めて見たが、見ていくうちにやっぱ心躍るというか、かつて自分にもあった・また未だに存在するハードコア/パンク魂が燃えるように感じられた。

音楽的にどれも似ているのは否めない。それぞれに個性があるとも、正直思えない。単純にパワーコードを3つぐらいかき鳴らすだけなので曲の面白味も薄い。一応プレイヤーとしては、この早さでコードを次々かき鳴らすのは意外に大変である(疲れる)。それをやれるのもあの時代、また10代を中心としたエネルギッシュなプレイあってこそだろう。

意外だったのがMinor Threatの扱いだ。後追いで知った限りでは、当時やりたい放題に暴れていたシーンに、「ストレート・エッジ」という禁欲的なDIY精神を導入し、「ハードコア」の概念そのものを確固たるものにした、先に挙げたBlack FlagやBad Brainsと同等、またはハードコアを象徴するバンドかと思いきや、本作ではthe othersの一つとして扱われるにすぎなかった。確かに、Minor Threatは後乗り組であり、言わばコロンブス的な存在であるBlack FlagやBad Brainsはパイオニアとしての存在感があるので、当時はその程度だったのかもしれない。マッケイ本人も「もっと評価されていい。音楽的にもチャレンジしている。」と語っていたが、やはりthe othersとして扱うにはあまりにもったいない。

あとあれだ、1シーンだけだったが、なぜかガンズのダフ・ローズ・マッケイガンがインタビューに登場した。他の連中はなんか薄汚れていて、だらしない感じだったが(=ハードコア的正装)、ダフだけはびっちり格好良く決めていて、明らかに他とは違うオーラが出ていた。これもマイナーとメジャーの違いか。

映画では「音楽的単調さもあり、3年程度で飽きられ、その後は皮肉にも正反対である商業ロック、ハードロックやヘヴィメタルに侵食された」という流れで終幕したが、やっぱどう考えてもそんなことはなく、ハードコアの萌芽はその後に受け継がれ、FUGAZIに代表されるポスト・ハードコアだけではなく、Sonic YouthやNIRVANAなどのグランジ・オルタナシーンに至る流れにも影響は大きい。やっぱ映画的にはあんまりいい作品ではない。ハードコアの息吹を感じたい、色んなハードコアバンドのLIVE映像を見たい人におすすめだ。

最後にアメリカン・ハードコアバンドをいくつか

Black Flag – Rise Above

Bad Brains – Pay To Cum

Minor Threat – Straight Edge

Minutemen – Corona

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