鬼畜 ★★★★☆

昔の女との間にできた三人の子供を押しつけられ、今の女と共謀し子供をなんとかしようとする男の話。

表現の規制(自粛・自主規制)が、表現そのものにとっていかに足かせ・ボトルネックとなるかが、本作を見るとよくわかる。演技とは言え三人の子供に対する仕打ち、いじめ、疎外感、家庭内暴力は、今の世情で製作するとなると、子供の人権が、だの、トラウマうんぬん、PTSD、などなど、「諸々の事情」でそれらしい雰囲気を演出するに止まるだろう。

しかし、本作におけるまさに鬼畜な二人の人物描写は、子供に対する非道な行いを通してしか見る側に対して伝わらないと思う。ストーリーはなんのことなく、ただ愛人に愛想尽かされて子供を押しつけられた男と今の女がその子供をどうにかするという、何の仕掛けも奇抜さもない、どストレートなものだ。ほとんど見た事はないが、よっぽど今の火サスのようなテレビ2時間サスペンスドラマの方が、ストーリーの起伏に富み、トリックもあり、面白味はあるかもしれない。ただそれが小手先の幼稚なものに感じられるほど、本作の鬼気迫る描写がもたらす本気度の高さは、たとえ現代の基準では人権蹂躙であろうと、あのむごい仕打ちを隠さず描く事で表現されている。女の苛立ちを描くのに口に飯をぶっ込む事は、どうしたって必要だ。

冒頭からして凄い。切羽詰まった女の表情、押しかけ対決する二人の女、そこに重なるしょぼい男、この20分程度の導入部分はよく目が詰まって凝縮されていて、三者三様かっこいい。小川眞由美という女優さんをあまり知らなかった(なんかどっかで見た事あるけど、何の人だったかな~程度)ので、見た後調べてわかった事だが、小川眞由美と岩下志麻はこれ以前に共演することが多かったらしく、それが本作における素晴らしい啖呵切りの、見事に呼吸のあった最強さに繋がっているのかもしれない。

現代でも家庭内暴力は時折ニュースとして見るので、こういう事は現実に起こっている。知らないガキが常に家にいて自分を苦しめるうっとうしさ、我が子を暗黙的に殺害したり、捨てたり、海に突き落とすために旅行する、この心理は、今の俺のリアルにはならず、時代性もありリアリティも薄かった。ただ、今まさに自分の問題として本作のような状況を抱えている人が見た場合、それはリアルにも重なり、また時代を超越した心理状況においてリアリティを持てるだろうから、不謹慎ではあるが、そういう人の感想を見てみたい気にもなった。つーかこの発想、ちょっと鬼畜だな。


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