WWII前ぐらい、無実の罪で南米・ギアナの刑務所に入れられた男が、贋札作り名人の男と共謀し脱獄を企てる話。
スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンの二大ビッグスター共演作品。当時的にもその年の目玉作品だったと思われる。見終わった後に確認のため調べたがやはり実話ベースの作品で、それがため見終わった後の感じ方もフィクションとはかなり異なってくる。
「逃亡(≒追跡)」と「無人島」は設定を与えれば勝手に面白くなる素材の顕著なもので、例えば最近大ヒットしたアメリカのドラマ、プリズン・ブレイクやLOSTはまさにそれが当てはまる。24も大きく捉えれば逃亡だ。なぜそれらが勝手に面白くなるのかと言うと、その体験自体が刺激的であるから、特別ドラマを用意しなくても場面持ちするからだろう。要するに、名優に「逃亡」「無人島」をやらせれば、高い水準の面白さは保証されるはずなのである。
その点本作は、逃亡それ自体のハラハラ感よりも、その過程における人との繋がりに光を当てた、アクション性よりヒューマンドラマ的な側面の方が色濃い。結局パピヨンは最初に説明された懲罰の内のギロチン以外、2年と5年の独房生活を過ごしたわけだが、その間にもドガを始め逃亡に関わった数名の受刑者の生活が垣間見れて、さらに実話ということでその奇縁が際立ってくる。ホンジュラスに着いたところで捕まったであろうドガもこれで終わりかと思いきや、最後の収監場所、絶海の孤島でまた二人が再会するというのは、実話であるから面白い。
映画的な一番の見所は、パピヨンの最初の独房生活ではなかろうか。独房に入ったばかりの元気な頃、隣の収監者に「顔色は悪くないか?」と聞かれたシーンがそのまま、彼自身の問題として後に再現されるシーンは技巧的であるし、その後も厳然と黙秘を続けるパピヨンの姿、根性は計り知れない。あの悲惨な描写があったからこそ、映画時間では一瞬でしかなかった次の5年の独房生活が、とてもショッキングに感じられる。実際の年月をそのように過ごした気持ちというのは到底理解できないが、あの独房シーンがあったからこそ、ラストの執念とも思える脱獄に懸ける意志の強さに結びついてくる。
およそ百年前まで、こうした非人間的労働者がいた上で本土の豊かな生活が成立していたというのは凄い歴史だ。今でも昔の植民地は経済の遅れでその名残をみられるし、形を変えた奴隷労働は世界中にまかり通っている。でも、それが世界の常識であった時代が意外と最近まで続いていたというのは、こういう映像を見ると改めて感じさせられた。