慶應義塾大学通信教育課程の噂:レポート

(前回まではちょっと文体が硬かったので、もう少し普通に書きます)
 土日は慶應通信の科目試験の日。筆者は日曜日に妻が出かけるために娘のお守りをしなければならなかったので土曜日のみ受験したんだけど、全然だめだったね。特に統計学。さすがに公式もろくに覚えずに受けたのは無謀だった。問題用紙に公式が書いてあると聞いていたんだけど、全部書いてあるわけではなかったのね。次回がんばります。
 ところで、慶應の通信がなかなか卒業できない理由の一つとして、レポートの返却がすさまじく遅いというものがある。まず数ヶ月かかるのが普通で、遅いと1年くらい待たされるといった話がWeb上のいろんなところに書いてある。20世紀の終わりくらいにはそれで訴訟まで起こされたようだ。ちなみに訴訟を起こしたのは以前に著書を紹介したライターの松本肇氏で、リンク先のサイトでネタばらしをしているけど、この噂を聞いて、始めから噂が本当なら訴えてやろうと思って入学したそうだ。氏の他の著書を読んでも思うけど、やっぱりライターの行動力はすごい。ちなみに筆者はこの訴訟の後でレポート返却期間がかなり早く(ましに)なったという話を松本氏のサイトで読んで入学を決めたので、氏は筆者を慶應に導いてくれたある意味恩人だったりする。
 では、実際のところ現在の慶應通信のレポート返却期間はどれくらいなのだろうか。筆者はレポートの評価とともに返却期間もメモして表にしているので、そこから現在のレポート返却状況について考察してみる。
 まず、以下の表が筆者がこれまで提出したレポートとその返却状況だ。これを見て、「2003年入学のくせにまともにレポート出し始めたのはここ2年くらいじゃないか」と自分につっこみを入れたくなるけど、それはぐっと我慢。これをご覧になった方は、とりあえずこんないい加減なやつでも慶應通信を続けていられるんだと思っていただければ。

科目名 年度 提出回 受付日 提出締切日 締切差 返送日 採点期間 評価
経営管理論 2005 1 2005/09/05 2005/09/05 0 2005/12/02 88 C
産業社会学(E) 2005 1 2005/12/05 2005/12/05 0 2006/01/20 46 B
保険学 2005 1 2006/03/06 2006/03/06 0 2006/04/19 44 B
経営学(E) 2006 1 2006/05/22 2006/05/22 0 2006/08/09 79 D
会計学(E) 2006 1 2007/05/10 2007/05/28 18 2007/05/25 15 A
金融論(E) 2007 1 2007/05/17 2007/05/28 11 2007/06/29 43 A
経済史 2007 1 2007/07/03 2007/09/03 62 2007/07/18 15 D
経済史 2007 2 2007/07/23 2007/09/03 42 2007/08/10 18 B
経営学(E) 2007 1 2007/07/23 2007/09/03 42 2007/08/31 39 B
統計学(A)第1回 2007 1 2007/08/01 2007/09/03 33 2007/08/15 14 A
経済原論(E)前半 2007 1 2007/08/27 2007/09/03 7 2007/09/28 32 D
経済原論(E)後半 2007 1 2007/09/03 2007/09/03 0 2007/10/19 46 B
簿記論 2007 1 2007/11/20 2007/12/03 13 2007/12/05 15 A
経済原論(E)前半 2007 2 2007/12/19 2008/03/03 75 2008/02/13 56 B
経済政策学(E) 2007 1 2008/05/26 2008/05/26 0 2008/08/27 93 D
国民所得論 2007 1 2008/07/14 2008/09/01 49 2008/08/27 44 A
財政論(E) 2008 1 2008/08/01 2008/09/01 31 2008/10/08 68 C
人口論 2008 1 2008/08/27 2008/09/01 5 2008/10/31 65 A
経済政策学(E) 2007 2 2008/10/07 2008/12/01 55 2008/11/07 31 B
都市社会学(E) 2008 1 2008/11/26 2008/12/01 5 2008/12/10 14 A
統計学(A)第2回 2008 1 2008/10/28 2008/12/01 34 2008/12/10 43 A
統計学(A)第4回 2008 1 2008/11/20 2008/12/01 11 2008/12/12 22 A
統計学(A)第3回 2008 1 2008/11/07 2008/12/01 24 2008/12/17 40 A
会計監査 2008 1 2009/01/07 2009/03/02 54 2009/01/16 9 A

 この表で、「受付日」と「返送日」はそれぞれ返却されたレポートの「受付年月日」「返送年月日」に押された印の日付(おそらく「受付年月日」は消印の日)で、「提出締切日」は直近の科目試験のためのレポート締切日、そして「採点期間」は「受付日」と「返送日」の差で、「締切差」は「受付日」と「提出締切日」の差である。まず「採点期間」をざっと見ていただくと、ばらつきはあるけれどもだいたい1ヶ月強くらいで返却されていることがわかると思う。もう少しちゃんと計算してみると、
レポートの平均返却期間:41日 標準偏差:24.27
となる。
 この段階で、噂ほどはレポートの返却は遅くないことがわかると思う。唯一事務局が目安としている(これ以上遅かったら連絡をくれと言っている)3ヶ月を超えてしまったのが経済政策学の93日だが、まあ1日だけだし(大の月を2回挟んだので)、許容範囲ではないかと思う。
 というところで今回は終えてもいいんだけれども、せっかくここまで表を作ったのでもう少し分析してみる。まずもう少し分野別に平均を出してみて、差がないかどうか見てみた。とりあえず合格・不合格、また必修・選択科目で分けて平均を出してみると、以下の通りとなった。
合格レポート:38日
不合格レポート:55日
必修科目:43日
選択科目:38日
 これだと必修と選択の差はあまりないように思える。一方で合格と不合格ではレポート返却期間に差があるようだ。そこで、せっかく統計学の勉強をしたので、評価と返却期間について相関係数を求めてみることにした。今回は評価のA~Dをそれぞれ1~4と割り当てて計算した。すると、相関係数は0.49619となった。だいたい中くらいの相関なのかな。統計学のテキストによると、自由度22(標本数24から変数2を引いた数)の5%有意水準は0.404らしいので、有意な相関といえると思う。といっても先日のテストをおそらく落としている筆者が偉そうにいえるものではないけど。
 ついでに、締切ぎりぎりに出した方が、レポートが殺到していて採点が大変で返却が遅れるのではないかと思ったので、これも相関係数を求めてみた。すると締切差と採点期間の相関係数は-0.3577。どうやら有意な相関ではないようだ。
 というわけで、どうやら返却が遅いほどレポートの評価は期待できないようだ。さんざん待たされたあげくに帰ってきたレポートはD。うーん、これはダメージが大きい。
 なお、上の表には入れていないけど、もっとはっきりと返却期間の傾向がわかるものがある。それが採点者だ。たとえば経済史の第1回提出と再提出の採点者は同じ先生だが、返却期間が15日、18日ととても早い。また会計学と会計監査の採点者も同じ先生だが、返却期間は15日と9日(!)だ。ただこれも、たとえば統計学の第1回と第3回の採点者は同じ先生だが、返却期間は14日に40日で全然違っていたりと、確実な法則とはいえない。
 というところで、筆者の結論は「レポート返却は噂ほど遅いとはいえず、(少なくとも筆者にとっては)レポート返却の遅さによって学習に支障が出たことはない」というものだ。ただ大学によっては1ヶ月以内のレポート返却が決まっていたり、レポート返却予定日がWeb上で確認できたりするところもあるようなので(以前どこかの大学のWebサイトで見たことがあるが、どこの大学かは忘れてしまった)、今の慶應の状態がベストではないと言うことも押さえておきたい。
 では次回は、レポートについてのもう一つの噂、「レポートの採点が厳しい」というものについて考えてみたい。でもこれは結構難しいんだよね。人によって感じ方が違うと思うし、客観的に表すことができないと思うので。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:卒業率(その2)

 それでは、筆者の考察(ともいえない妄想)を書くこととする。それにしても、科目試験まで一週間を切っているというのにこのような駄文を書き連ねているのは明らかに時間の浪費なのだが(しかも毎朝出勤途中に会社近くの喫茶店に寄って書いている)、中途半端に終わっていると落ち着かないので。
 まずこの表の全体を集計すると、通信教育課程が始まってから現在までの卒業率が約5%ということがわかる。この卒業率は噂でよく出てくる割合とほぼ一緒である。しかしながら、これは通信教育課程発足直後の現在とは全く環境が異なる時代の数値も含んだものであり、直近ではどうなのかがぼやけてしまっているように感じる。そこで、もっと単純にその年度の卒業者数を入学者数で割った割合を「単純卒業率」として出してみる。
 当然ながら、入学者がその年度にすぐ卒業することはあり得ないので、この「単純卒業率」は正確な卒業率を表してはいない。ただ、分母である入学者数が安定しているのであれば、ある程度実態を反映しているのではないかと思って出してみた。これを見ると、発足直後は除いてしばらくは5%を超える卒業率であるが、1970年代には5%を切る低迷期が続き、その後1980年代はほぼ5%で横ばい、そして1990年代後半以降は急に卒業率が跳ね上がり、直近では20%前後の卒業率となっていることがわかる。
 しかしながら、この直近の高い卒業率はあまり実態を表していないだろう。この時期、入学者数がそれまでの3000人台から一気に1500人程度まで激減し、先ほど書いた安定した入学者数という前提を満たしていないからである。たとえば直近の2007年度について考えてみると、「ニュースレター慶應通信2008年春季特別号」に記載された卒業生の在籍年数は、12.5年以上(つまり最長在籍年数までに卒業できず、再登録して卒業した人)が1/3の101名となっている。この人たちが入学したと思われる13~16年ほど前の入学者数は5000人前後もいる。これだけを見ても、この「単純卒業率」があまり当てにならないことがわかる。
 ただ、そうはいっても近年卒業率が急速に改善されているだろうことは想像ができる。1980年代までは200人前後で安定していた卒業者数が、直近15年ではほとんど300人を超えているためである。今後、入学者ラッシュの影響がなくなった後の卒業者数がどのように推移するのかは興味深い。
 また、もう一つの注目点は「退学率」である。通算の入学者数・卒業者数と現在在籍者数から退学者数=入学者数-(卒業者数+在籍者数)を算出し、そこから退学率=退学者数/入学者数を求めると、実に90.7%にも上る。この数値も直近ではなく通信教育発足以来の通算であるが、いかに途中で挫折する人が多いかの傍証にはなるであろう。
 さて、このように慶應の卒業率について考察してみて、絶対的に卒業が難しいことはわかったが、他の大学と比較して卒業は難関なのであろうか。直近で入手できるデータとして平成20年度学校基本調査があるが、これによると大学通信教育の正規課程在学者数は185,719名、平成19年度中の卒業者数は16,232名となり、これで求められる「卒業者/在学者」率は8.7%となる。同じ計算を慶應でも行ってみると、平成19年度在学者数9,383-1,202=8,181名、卒業者数323名であり、「卒業者/在学者」率は3.9%となる。どちらも厳しい数字だが、このように比較すると、やはり慶應通信の卒業の厳しさは際立っている。
 以上で卒業率についての考察はとりあえず終える。やはり中途半端なデータだけで判断するのは難しい。ただ、慶應にしても他大学にしても、通信教育で卒業するまでこぎつけるのはかなり大変だというイメージは持ったのではないだろうか。
 次回以降は、なぜ慶應通信の卒業が難しいのかという点でよく挙げられる噂である、「レポートの返信が遅い」「採点が厳しい」について考えてみる。

慶應義塾大学通信教育課程の噂:卒業率

 慶應の通信教育課程における噂でもっともよく聞くのは「低い卒業率」であろう。曰く、一割もない、いや5%だ、いや3%だ、といったような話は、慶友会などの通信仲間での会話や慶應通信を扱ったブログを閲覧するとよく出てくる。
 しかしながら、実際はどうなのだろうか。これがなかなか難しい。まず大学が卒業率を公表していない(Webサイトの「入学者Q&A」を参照)。そもそも卒業率の計算をどう行うのかによって数値も異なってくる。たとえば日本福祉大学通信教育部は高い卒業率をアピールしているが、ここで使用されている卒業率は4年次在籍者卒業率である。また、中央大学通信教育課程のWebにあるFAQでもこの計算式を使用している。この計算式が表すのは、年次的にもう卒業可能になっている学生の中からどれくらい卒業生が出ているかの数値であり、たとえば通信教育について行けずに1年で中退した学生についてはこの母数には含まれない。確かに大学から見ると興味本位で入学してすぐ退学する学生を数に含めたくないという気持ちはわかるのだが、筆者を含め通信教育の受講を考えている人間が知りたいのは、このような学生も含めた卒業率ではないだろうか。まあそもそも慶應では4年次在籍者(慶應の場合は学年制をとっていないと明言しているので、テキスト配本完了年以降の在籍者とでもなろうか)の人数は公表されていないため、この計算式をとることはできない。
というわけで、慶應で公表されている数値を用いながら、できるだけ卒業率に近いものを求めようと、去年の夏頃に少し調べてみた。慶應では、通信教育発足50周年を記念して1998年に「慶應義塾大学通信教育部の五十年」という本を出版している。この巻末に通信教育が誕生した1948年から1997年までの入学者数と卒業者数が記載されている。これに、1998年以降の「ニューズレター慶應通信」(毎月通信生に配布される学内連絡用の冊子)各号の中で入学者数・卒業者数が記載されたものをメモして表にまとめてみた。
ただこれが意外と大変だった。筆者が入学したのは2003年であるため、それ以前のニューズレターは大学図書館で閲覧したのであるが、ここで集計した数値のうち、1998年~2000年の入学者数が、2008年春季特別号に記載されている年度別の入学者数と一致しない(春季特別号では全体数を集計している。今回は学部別の数値をまとめたかったために過去のニューズレターをあたった)。具体的にはすべて数十人多くなってしまう。数え間違いかと思ってもう一度図書館に行って1998年のものだけ数えなおしたが間違いはない。おそらくニューズレターに発表されなかった入学辞退者でもいたのだろうとあきらめ(でも2001年以降は一致しているのだが)、学部別と全体集計とで別々の値を用いることで妥協した。
このようにまとめたのが、20090114-stat_graduate.pdfである。とりあえず眺めていただきたい。次回にこの集計値についての筆者の考察をまとめてみる。

慶應義塾大学通信教育課程:概要

これまでも書いてきたとおり、慶應の通信教育課程はもっとも古い大学通信教育の一つであり(法政に次いで2校目)、それゆえ採用している制度はもっともオーソドックスなものであるといえる。以下、簡単にその特徴をまとめる。

  • 学費が低廉である。
  • 基本的な学習手順は以下の通り。
    1. テキスト・参考書を読む
    2. レポートを作成する(科目によって異なるが、基本的には4000字以内)。
    3. レポート提出・受付の時点で科目試験受験資格が発生
    4. 科目試験を受験
    5. 試験・レポートがともに合格した時点で単位取得
    6. 卒業所用単位の1/4はスクーリング(要するに普通の講義)で取得
    7. 一定の条件(所得単位等)を満たすと卒業論文指導を受けて卒論作成開始
    8. 半年ごとに卒論指導を受け、提出可能となれば卒論提出
    9. 卒業所用単位の充足・卒論の提出が終わると最後に卒業試験(卒論審査と面接試問)を受け、合格であれば卒業
  • 大学側からのサポートは薄い。科目試験の受験から卒業の申告まで基本的にはすべて学生側からのアクションによって実施される。
  • その代わり学生の自主的な集まりである「慶友会」をサポート

とりあえずこんなところにしておくが、要するに「学士となるための道筋(カリキュラム)とリソースは用意した。これをどう利用するのかはあなた次第だ。」というのが大学側のメッセージであろうか。ある意味突き放した姿勢である。
さて、この慶應の大学通信教育であるが、日本屈指のブランド私大が実施していることもあって、インターネット上には様々な噂が流れている。この中には、当然ながら確かにそうだと頷けるものから本当にそうだろうかと首をひねるものまで様々なものがある。次回以降は、これら噂を、筆者のこれまでの体験と資料から検証していきたいと思う。しかしながら、当然ながら筆者はこの通信教育の全貌を把握しているわけでもないし、まだ卒論指導を受けている段階で卒業すらしていない。また、慶應通信以外には通学課程の大学を1校卒業しているのみであり、他の通信教育や通学課程との比較が適切にできるかどうかもわからない。というわけで、今後記載する事項は、あくまでも筆者の主観であるということをあらかじめご承知願いたい。
その代わりに、筆者が有用だと感じた通信教育に関するWebサイトをいくつか紹介する。
大学通信教育つれづれ
9つの大学通信教育を体験されている方が通信教育の特徴について記載されているブログ。慶應通信も卒業されているが、かなり昔であるため記載内容に現状と異なる点もあるが(ご本人もその旨断りを入れている)、実際に体験した上での各大学の通信教育比較はほかにできる方がなかなかいないため、とても参考になるサイトである。
ようこそ!アトランティスへ
2007年に慶應通信を卒業されたアトラン氏によるサイト。氏は他の通信教育も体験されており、それらと比較した現在の慶應通信の内容が豊富に記載されている。何より氏のエネルギッシュな姿勢がにじみ出たテキストを読むと、こちらもやる気にさせてくれる。
通信制大学体験記
1994年に慶應通信を卒業された方のサイト。これも情報は古いのだが、慶應通信での勉学の仕方が網羅されていて、非常に参考になる。筆者はこのサイトを読んで慶應通信に入学しようと決意した。
以上、例によって次回も更新間隔は長いと思うが(もうすぐ科目試験でもあるし)、今後ともご愛読いただければ幸いである。

大学通信教育の例:早稲田大学

あけましておめでとうございます。今年もこのWebの極北で、誰が読むともしれないくだらない情報を気まぐれに更新し続けようと思います。
 さて、前回は早稲田の通信教育にふれると予告したが、これ以上自分が関わっていない組織の話を書いたところで有意義な情報にはならないと判断し、簡単に述べるにとどめる。
 早稲田は慶應と並ぶ私学の名門大学だが、大学通信教育の発祥に深く関わり、現在も基本的には発足時のスタイルを堅持している慶應と比較して、早稲田の通信教育課程が発足したのは2003年と最近であり、そのスタイルも慶應とは全く異なる。
 具体的には、eスクールを標榜しているところからわかるとおり、講義の動画配信から議論用BBS、レポート提出までインターネット上で完結していること、少人数制であり、学生個々のサポートに力を入れていること、書類審査に加えて面接も課して学生の選抜を行っていること(2008年度の倍率は1.91倍)、通学課程並みに高い学費(4年で約450万円)などである。
 これが意味するのは何か。それはすなわち、通学課程の完全な代替である。実際、パンフレット等を見ても従来の通信教育とは一線を画し、通学と同等以上の質の教育を届けるという姿勢がはっきりとうたわれている。
 では、なぜ早稲田は今になってこのような通信教育を始めたのだろうか。筆者が考えている理由は二つ。一つは制度的・技術的制約から解放されたためである。以前のエントリーでも触れた、1991年の大学設置基準大綱化以降の規制緩和の流れ、およびICT(情報通信技術)の急速な発展により、インターネットを用いた通信教育のみで学部教育を完結できるようになってきたこと。新規に通信教育を実施するのであれば、当然これらの状況を利用しない手はない。これは他の大学でも同様で、ここ数年で新規開講した大学通信教育は、インターネット経由のe-learningを売りにしているところが多い。
 もう一つは早稲田特有の事情である。そもそも、慶應が戦後に通信教育を発足させた大きな理由として、勤労青年へ高等教育を提供するというものがあった。早稲田も同じく戦後すぐに勤労青年への高等教育提供を始めたのだが、その手段は夜間部(二部)として提供するというものだった。
 しかしながら、高度経済成長を経て日本社会が成熟するとともに、高等教育の勤労青年からの需要は減少し(そもそも勤労青年自体が減少した)、変わって生涯学習としての高等教育の需要が増大していった。時間と空間の制約が少ない通信教育はこのニーズにある程度応えることができたが、どちらも制約のある夜間部はこれに応えることが難しい。そのため、近年各大学の夜間部は軒並み廃止・再編されてきている。早稲田も例外ではなく、社会科学部(1966年に社会科学系の二部を統合して誕生)は1998年に昼夜開講制となり、2009年度からは完全に昼間部に移行する。また第二文学部は一足先に2007年に文学部に統合され、募集を停止している。この廃止された夜間部の受け皿となるためにも、通信課程は夜間部すなわち通学課程と同等以上の質を保たなくてはならないのである。逆に言えば、通信課程に託す目処がついたからこそ、夜間部を廃止する選択をとることができたのであろう。
 このように、早稲田の通信教育の方向性は慶應とはかなり異なっており、それ故にそれを必要とする学生の層も異なっていると考えられる。筆者はこれ以上早稲田の通信教育に深入りすることはしないが、今後も機会があれば定期的にチェックしていきたい。
 短くまとめるつもりが結局長くなってしまった。実は筆者は早稲田好きなので(元々早稲田進学希望だった)、部外者の割に長々と語ってしまいがちなのである。
 それでは次回からやっと慶應の通信教育について記述する。これ以降はこれまでのような外部からの客観的情報よりは、筆者が体験した主観的情報が多くなってくると思う。その方が読む方にとっては新鮮な情報が得られるものと考えている。