霧が濃いある夜、わけもわからず自警団の連中に呼び出された男、彼は連続殺人魔を捕まえるという大それた羽目になってしまった。一方サーカス一座の芸人女、彼女は恋人の浮気に腹を立て街を徘徊していた。流れに任せて動く両者、運命とは身を任せるものなのか、それとも切り開くものなのか?
まず驚いたのは、本作が1992年の作品であること。モノクロ映画で、しかも話の筋やディティール等、戦前の喜劇のような作風なのでそれがかえって新鮮だった。そういえば見てるうちに「こいつマルコビッチっぽいな~」と思って見ていたんだが、なるほどそれなら合点が行く。
本作は男(ウディアレン)とその周りの人々とのやりとりから、彼ら独自の観念を男にぶつけて、見ている側にもその観念を認識させることで全編がつながっている。連続殺人魔自体は話の本筋ではなく、それを元にした人々のやりとりが本作の見所だといえる。
コメディ仕立てがかえって普遍的なテーマをサラッと投げかけ、気付くまもなく次から次に、そしてそんな中に男も女も自分なりの答えを見つけ出し前進する。この奇妙な霧の濃い夜の話、それはとんでもなくイレギュラーなひとときでもあり、また日常の出来事の積み重ねでもあるようだ。