<%@page import="java.sql.*"%> <%@page import="atmarkit.MyDBAccess"%> <%@page contentType="text/html;charset=EUC-JP"%> あずみ
あずみ
開始年 作家 既刊 ジャンル
1994年 小山ゆう 21巻 チャンバラ

戦国時代の産物、戦争孤児だった10人の幼児が「じい」のもとに集められた。時は流れ、その10人は常人を遙かに凌駕する剣術を身につけ、じいのために、仲間のために、そして使命のために戦う。衝撃的チャンバラマンガである。

作者の小山ゆう氏は、漫画家になるのならチャンバラ漫画を書きたかったらしい。これまでデビュー作「俺は直角」、また「おーい龍馬」で時代劇ものを描いているが、前者はチャンバラというより学園熱血まんが、後者は武田鉄矢系短足日本人の泥臭さの味が強い。いわゆる斬り合い、チャンバラはメインではない。昔の白土三平時代ならばともかく、現代の漫画において最初から一般受けしなそうな時代劇系の漫画を書けないのも、ある程度仕方のないところだ。

「あずみ」はやはり主人公であるあずみの殺しシーンが強く印象に残る。なんといっても殺し方が見てて爽快でさえある。さすがに書きたかっただけあって、純粋にチャンバラとなると作家の思いは凄まじいものがある。

一番手っ取り早いのは第1話目を見て欲しい。内容は書かないが、圧倒的な展開だ。ストーリーの骨子は典型的な「主人公(達)突出型」を思わせる構成であるが、その破綻っぷりが見事である。。

超有名な漫画にドラゴンボールというのがある。この漫画も主人公の悟空以外に、クリリンやベジータなどいろんなキャラクターが登場するが、こいつらは全編にわたって主人公にちょっかいをだしてくる。すぐ死なない。死んでも蘇るような変態野郎どもだ。ドラゴンボールに象徴されるような「仲間と一緒に悪に立ち向かう、そして結局勝つ」といったような漫画、少年ジャンプ黄金期の漫画が形成したスタイルには絶対的なものがあり、それは確かに有効な手法ではある。手段としての「友情・努力・勝利」は、シンボルとしてマジョリティーに支持されるものである。それを第1話で、それも大量かつ迅速にうち破る。インパクトが強すぎて当然。あとトーナメントもないし。

とくに「なち」など、読者が感情移入しやすそうなキャラクターを敢えてあっさり切り捨てる作者のエロさ。このように、放っておけばインフレ漫画になりそうな素材を、最初から明確な意志を持ってばっさり切り捨てている姿勢はすばらしい。また、それだけ作者にも書きたいものがあるし、自信があるということだ。

内容については、作者がこれまでの鬱憤を晴らしているかのように、初期の段階では「一話のほとんどが人殺し」というのが多い。しかし、あずみの醍醐味は殺しシーンにあらず、と話が進むに連れてそう感じる。あずみは世間と隔離されたところで幼少期を送り、大人は「じい」こと小幡月斎だけ。物語初期のあずみらの価値基準は「じい」である。つまり「じい」が正義、これを当然視している。しかも初期は「徳川に刃向かう敵を倒す」という明確な目的があり、そのための正義を振りかざしている。彼らは「使命」という言葉をよくつかうが、それは正義という大義名分を端的に表しているのだろう。

しかし秀頼が死んだあたりからのあずみの自己に対する問い、それは秀頼や井上勘兵衛との関わりから、「正義」という価値観が崩れてゆくというものだが、それがこれからどのように変化してゆくのか。勘兵衛は「自分が大事だと思うもののために生きよ」みたいなことをあずみに語ったが、それがあずみの新しい正義という価値観に置き換わるのではないかと思う。つまりこれからの展開は、あずみのまわりの人物との関わり、そういうあずみの心の動きがメインになるだろう。

そんな風に考えると、醍醐味である殺陣にも変化が見える。物語の初期には、殺しに対してほとんど感情が介されていない。人数を数えて20人になったらぶっ殺すとか、まさしく「使命」という記号化されたものである。それが秀頼の死後、襲われたり、果たし合いを申し込まれる以外は、なにかの拍子に「感極まって」あるいは「怒り」で殺しまくっている。

話が進むにつれて、あずみに関わるものはほとんど死んでいる。作者は連載当初、「あずみを女版ゴルゴ13みたいに描きたい」と言っていたが、それを貫くつもりなのだろうか。しかし、こうもあずみの味方がバカスカ死なれると素直に悲しくなる。ここまであずみの心情の変化を描いてきて、もはや「女版ゴルゴ」という冷血なキャラ設定は無理だと思うんだが。確かに読者を裏切るのは、裏切られる側にとっても漫画の醍醐味と言えるのだが、こうも裏切りまくられると、逆に引いてしまうと言うのが本音だ。

いよいよ佳境に入った感のある本作。作者の思いの丈にふさわしく、また読者の思いを華々しく裏切りまくって、大団円を迎えて欲しい。